青の先で、きみを待つ。



「それで、なにか私に用があったんじゃないの?」

「べつにない。ただ本当に喉が乾いてただけ」

「あんた私のことパシリだと思ってんの?」

「はは」

「いや、笑うところじゃないし」

もう、と言いながらも、私は蒼井の側にあった椅子に腰かける。

おにぎりは食べたかったけれど、今から購買に行くのも面倒くさいし。今朝は誤魔化してしまったけど、私は彼とちゃんと話さなければいけないことが山ほどある。

「私さ、蒼井に聞いてないことがいっぱいある気がするよ」

「じゃあ、今言え」

「この世界って本当になんなのかな。途切れ途切れに浮かんでくる記憶は嫌なことばかりで、正直私はすべてのことを思い出すのが怖くなってるよ」

すると蒼井は寝大仏のような体勢を崩して、ベッドから起き上がった。

「お前さ、今朝俺に変わったことはないか聞いたよな?」

「え、う、うん」

「正直俺は〝なんにも変わってないこと〟にうんざりしてんだよ。意味もなく喧嘩を吹っ掛けてくるやつも、反吐(へど)が出るほどムカつくあの家も、残念なことに現実と変わってねーんだよ」

……あの家? 蒼井の家族のことだろうか。深く聞きたいけれど、今は追求しないほうがよさそうだ。

「だから俺はここにいたいと思わないし、早くお前の記憶が戻ればいいって考えてるよ」

「私の記憶が戻れば、この世界から抜けられるの?」

「それはわからない。でも、最初に言ったけど、ここはお前のための世界なんだよ。お前自身がなんでこうなったのか思い出さない限り、俺にできることはなにもない」

私だって、なにがどうしてこうなっているのか、真実を知りたい。でも、それでも……。

「お前は現実に戻りたくねーのかよ」

心の奥を彼に見透かされてしまった気分だ。


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