青の先で、きみを待つ。
「私はなんで、屋上から落ちたのかな」
「それは……」
蒼井の唇が動こうとした瞬間に、私は「あ、ま、待って」と、言葉を止めた。
「今はまだその、保留にしとく……。これ以上混乱したくないし」
彼が真相を知っているとは限らないのに、自分から予防線を張ってしまった。臆病者だとバカにされると思ったのに、蒼井は優しく私の頭を撫でてきた。
「俺たちが死んでんのか、生きてんのか。お前の記憶が戻った時、現実に戻るのか、それともこの世界が消滅して俺たちの意識が消えるだけなのか、それはまだはっきりとわからない。でも、ここにいる全員がまがい物で、お前が作ってるものだってことだけは忘れんなよ」
そんなことを言われても……私にはみんな息をしてる人間にしか見えない。
けれど、同じ人間はふたりいない。ここにいる人たちは全員、現実世界で今も生きてる。そう考えると、また頭が混乱してくる。
「もう、なんでこんな複雑な世界に来ちゃったの……」
情けない声を出した瞬間に、保健室のドアが開いた。なぜか私は蒼井に手を引かれて、物陰へと押し込まれた。
「な、なんで隠れる……うぐぐ」
「しー」
声を塞ぐようにして、口に大きな手を押し当てられている。息ができないからなのか、頭がクラクラとしてくる。いや、これはきっと彼から漂ってくる甘い香りのせいだ。
誰が来たのか、蒼井はベッドの隙間から顔を覗かせている。私も気になって確かめると、そこにいたのは、びしょ濡れの橋本さんだった。