青の先で、きみを待つ。




雨は降っていないので、あんなに濡れているのは不自然だ。

そういえば橋本さんは、視聴覚室でDVDを見た時からいなかった。あの時、沙織も遅れて授業にやってきたし、まさかこの濡れている原因も沙織が……?

「なんだ、セン公じゃねーのかよ。隠れて損した」

「なんで先生だったら隠れるのよ」

「俺、養護教諭に出禁にされてんの。ここでサボりすぎだって」

そりゃそうでしょうよと、ため息をつきながらも、私は今もなお身を潜めて橋本さんの前には出なかった。

彼女はタオルを借りにきたようで、二枚ほどを手に取って、髪の毛や制服を拭いている。同時にグスンと鼻をすする音がして、泣いているんだって、わかった。

「今度は助けてやらねーの?」

蒼井がわざと煽るような言い方をしてきた。

本当は大丈夫?って声をかけたい。どうしたの、誰がやったのって聞きたい。

でも聞いたところで、私は無力だ。

沙織にやめなよって注意することも、その手を引いて逃げ道を作ってあげることもできない。

今、声をかけたら……また中途半端なことをすることになる。

「……ううっ……」

橋本さんの泣き声に、胸が押し潰されそうになっていた。私には、苦しい、辛い、助けてってそう聞こえる。

橋本さんは一通りタオルで拭いたあと、なにかを書き留めて、そのまま保健室を出ていった。


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