青の先で、きみを待つ。
保健室でのやり取りから一週間が過ぎていた。
「おはよう、あかり」
「ねえ、昨日の話しだけどさ」
昇降口から教室に着くまでの間に私へと声をかけてきたのは八人。
友達がたくさんいて、尚且つ、目立つわけでも目立たないわけでもないちょうどいいポジションに自分はいると思っている。
――『ねえ、蒼井。私ってひょっとして、現実世界で……いじめられてた?』
あの時の私は、恥ずかしいぐらいに声が震えていた。
記憶の中で聞こえてきた嫌な声たちは、明らかに私に向けられたものだった。
それを認めることも、確かめることも怖かったというのに、彼からの返答は『しらね』とたったの三文字だけ。拍子抜けもいいところだ。
おそらく、私たちは現実でほとんど関わりがなく過ごしていたに違いない。
それでも同級生だし、なにかを目撃したとか、それらしいことを小耳に挟んだことがあるとか、なんでもいいからあの記憶に関することを聞きたかっただけなのに、彼は『知らない』を繰り返すだけ。
考えてみれば、私のことを詳しく彼が知っているのなら、記憶のことだって口頭で伝えればいいだけの話だから、おそらく本当に知らないのだと思う。
それならどうして私たちは、一緒に屋上から落ちることになったんだろうか?
同じタイミングで落ちるなんて、通常ではありえない。
なにかのハプニングがあった?
揉み合いになって?
それとも誰かに突き落とされた可能性もある?
ウジウジしてる人は嫌いで、いつもはっきりと物事を言う彼だけど、以前〝どうして私と蒼井は屋上から落ちたのか゛という問いかけだけには、口を濁した気がする。