青の先で、きみを待つ。



体育の授業なんてどうでもよくて、参加はしたけれど、ほとんどなんにもしなかった。

「紺野。お前日直だよな? これ日誌だからちゃんと書いて放課後に提出しろよ」

教室に戻るために廊下を歩いていると、濱田先生に呼び止められた。

「あ、そういえば、この前スーパーで紺野のお母さんに会ったんだよ。余分にあるからって卵の割り引き券もくれて、とても気さくで優しいお母さんだよな。改めてよろしく伝えておいてくれ」

……卵。そういえば多めに買ってきた日があったっけ。濱田先生はその後も卵で親子丼を作った話を続けていたけれど、私はずっと(うわ)の空だった。

〝自分のことは平気でも、私のせいで紺野さんに被害が起きた時には堪えられないから〟

あんな怪我まで負わされているのに、橋本さんは私の心配をしてくれた。

彼女は些細なことでいじめが始まることを嫌というほど知っている。だからこそ、その引き金を自分が作ってはいけないと考えている。

――『橋本さんと仲良くしたら次はあかりがいじめられるかもよ。それでもいいわけ?』
   
美保に言われてから、私はずっと自分のことを守ってきた。

橋本さんのことを助けたいというより、助けた後で自分がどうなるのかを想像していた。

でも、私は知っているはずだ。ひとりで戦うことがどんなに辛くて、苦しいことなのか。

まるで蟻地獄のように、もがけばもがくほど、深い場所へと埋もれていく。

空が見えていても、届かない。

空気はあるのに、息苦しい。

声が出るのに、助けてほしいと口には出せない。

耐えて、耐えて、耐えた先にあるのも、また地獄。

それが、いじめだ。

「先生、話したいことがあります」

出口がないのなら、出口を作らなければいけないと思った。


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