青の先で、きみを待つ。
おそらくまりえが実行委員になっていたら、彼と同じ空間にいるために釣りを提案していたことだろう。
『えーいいな……。うちのクラスは鳥の観察とかだよ』
『それもいいじゃん。そっちのクラスの実行委員って市川美保だよな? この前集まりの時にいた』
『ふーん、そうなんだ』
『なんか市川ってエロいよな』
『……はあ!?』
まりえが大きく反応した。男子がすぐに下ネタの話をするのはいつものことだ。普段のまりえだったら軽々しく話に乗っているのに、今回は嫌悪感をむき出しにしていた。
『足ほせーし、顔ちいせーし。磨けば光る原石的な感じだと思わない?』
男子から見ると、市川さんはそうやって映るらしい。
私も前から市川さんは佇まいからして品があるし、綺麗だと思ってたけれど、一度も面と向かって絡んだことはない。
『俺、ああいうタイプの子って実はけっこう好みなんだよね。周りにうるさい女子しかいないからなのか、大人しい子ってめちゃくちゃ可愛く見えんの』
きっと彼に悪意はない。でも、私にはうるさい女子の中にまりえも含まれていて、そういう子は好みじゃないし、可愛くもないって言ってるように聞こえてしまった。
不安になって彼女のことを見ると、わかりやすく顔を険しくさせている。
『あんな子のどこがいいの? あんた趣味悪いんじゃないの?』
あまり人の悪口を言うタイプではないのに、まりえの逆鱗に触れてしまったようだ。
『いやいや、お前みたいに見た目と中身のギャップがないほうが魅力ないって! 橋本も市川さんのことを見習って色気を出す練習でもしろよ』
『……っ』
まりえは悔しさで、なにも言えなくなっていた。
こんな男のどこがいいんだろうか。普通に失礼だし、彼こそ魅力がある人になれるように頑張ったほうがいいんじゃないのと思ってしまう。
……けれど、彼に不快感を抱いた私とは違い、まりえの受け止め方は違った。