淡雪のように、消えていった。
「ちょっと、お話しない?」

 お姉さんはそう言って、コートのポケットからコーンスープの缶を取り出した
 手に取るとそれは冷めきっていた。

 私はそれを飲み干し、缶を逆さまにしたまま口につけた状態でいると、お姉さんが私の缶の底を叩いてきて、缶に残っていたコーンが私の口に入ってきた。

「あっ、ごめんなさい」

 その行為を終えたあと、お姉さんは謝ってきた。

「私の心、生きるよりも死ぬのほうにいつもいたの。まぁ、今もかもだけどね」

 突然、何故初対面の私にそんな話をするのだろうと思いながらも、私はお姉さんの顔を見て頷いた。お姉さんもこっちを見ながら頷き、ふたりで川を見た。

「私、すっごく馬鹿でね、周りによく馬鹿のくせにとか、頭悪いとか言われてきたの」

 話を聞きながら私は口の中に残っていたコーンのかすを飲み込んだ。

「その度に傷ついていたけれど、笑って傷を隠しながらごまかして生きていた。もう、これ以上生きているの辛いなって思った時、どうせなら私を傷つけてくるこの人達よりもキラキラ輝いて生きてやるんだ!ってなって、今を生きてる。……生きて欲しかった」

 お姉さんは目と声を潤ませながらこっちを見つめてきた。

 あぁ、そっか。お姉さんは今、私の事を彼だと思いながら話しているんだな。
 私もつられて目が熱くなり視界がぼやけてきた。

 今この場には、彼にそっくりなお姉さんと、彼と重ね合わせられている私がいる。

 ――彼はいない。
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