淡雪のように、消えていった。
*高校二年生の冬

 相変わらず私は、流れている川の姿を見に行っている。冬は特に見に行く頻度があがる気がする。白に包まれた川が癒してくれるから。

 その日は眠れなくて、ついに寝るのを諦めた。まだ暗さも残る、朝になりかけの時間に川を見に行った。この時間は一番景色も空気も澄んでいるから好き。月に数回、早起きしてこの時間にさまよっている。

 外に出ると空気がとても冷えていて、すぐに目がシャキッとした。風は全くないから肌寒さは少ない。ちょっとだけ川を見たら帰ろうと思っていた。遠くから川を眺めていると、誰かが雪明かりに照らされていた。川に向かって一直線に向かって行く。その人は川に入る直前でしゃがみこんだ。

……えっ? 大丈夫なの?

 私は足跡のない、深く積もった雪に埋まりながらその人の元へと向かっていった。膝下まで長さのある長靴を履いてきていたから、雪があんまり靴の中に入ってこなかった。
 その人は、こっちの気配に気がついたからなのかは分からないけれど、急に立ち上がり川に飛び込もうとした。

「ちょっ……何してるんですか」

 追いつき、思いっきり腕を引っ張った。
 積極的に止めに行く自分の行動に驚いたけれど、それよりも何で飛び込もうとしているの?
 ふたりは尻もちをついた。
 雪はふかふかしているから全く痛くないし、驚きすぎて冷たさも忘れていた。

「あっ!」

 私は叫んだ。見覚えのある顔が目の前に……。
 彼だった。中野翔くん。
「止めないで欲しかった。」
 彼はか細い声でそう言った。
「死にたかっ……」
 更に小さな声でそう言うと、彼はうつむいた。

 その言葉を聞いただけで目の前がぼやけてきて、一気に涙が溢れてきた。

……これから、どうしよう。

 とりあえず私は彼に、その場で待っててとお願いをして、寒かったから暖かい飲み物を買おうと思い、すぐ近くにある自動販売機に向かった。

「死にたい」
「死にたい」
「死にたい」

 歩きながら私は三回気持ちを込めて呟いた。そのセリフ、あの行動。私もかつて同じ事をした。
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