淡雪のように、消えていった。
「さっき言った事は冗談だよ! 驚かせてごめんね」
 私が戻ると、すぐに謝ってきた。 
 嘘だ。本気だったでしょ? なんて言えないから、微笑みだけで私は返事をすると、彼に温かいコーンスープの缶を二本渡した。一本は飲むようで、もう一本はカイロ代わりにコートのポケットに入れてもらった。

「おっ、コーン好きなんだ、俺」

 ――うん、知ってる。ペンケースと間違えてコーンマヨネーズパンを持ってきた事件の時、もしかして好きなのかなって思った。そして、すれ違う度に、コーンの香りがした気がして、それは確信に変わったの。それよりもその好きって言葉が、私への言葉だったら良いのに。

 その言葉は心の中で呟くだけにして、そっとくだいて胸の内にしまいこんだ。

 寒い中飲むコーンスープはより温かく、甘く感じて美味しかった。

 彼は缶を逆さまにして、ずっと缶を叩き最後の一粒まで出そうとしていた。
 私もそうしようかなと思ったけれども、彼にその姿を見られたくなくて、少しもったいない気がしたけれどやめておいた。多分三粒ぐらいは残っている。

 飲み終わり一息ついた後、彼は語り出した。

「もう、限界来ちゃったんだよね」

「限界?」

「うん。なんか、もう何年も前から何もかも面倒くさいなって思ってて、今勢いだけでこの川に飛び込んでみたら楽になるのかなって思った」

 何年も前から?  中学の時の彼のイメージは、明るくて悩みのなさそうな人だった。

誰もが悩みを抱えていて。悩みがない人を探す方が難しいのかもしれない。

 なんて返事をすれば良いのか分からなかった。

 ショルダーバックにずっと入れっぱなしだった、小さなカイロが十枚入っている未開封の箱の事を思い出し、鞄から出して箱を開けると、彼に半分渡した。カイロの袋を開けるとすぐに温かくなり、長靴やポケットに入れたりして、一枚を自分の頬に当てた。彼も全く同じ事をしていた。
 
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