淡雪のように、消えていった。
 冷えた空から陽の光が降りてきた。

 途中から話す事がなくなり、立ちながら流れる川をふたりで静かに眺めていた。川は音を出し、湯気を上げながらずっと流れている。寒いのに凍らずに。なんだか不思議。

 私は普段、完全に止まってしまうとなんだか心の死が近づいてくる気がしている。川のようになれば良いのか。でも、ただ疲れるだけかな。

 隣の彼は、この風景を見ながら何を考えているのだろうか。中学の時よりもぐんと身長は伸びていたけれど、当時よりも何故か小さく見えた。

「あっ!」

 彼は突然大きな声を出した。
 彼の視線を追うと、キラキラしているものが空中を舞っていた。

「ダイヤモンドダストだ……」

 彼が小さく吐くその言葉は、冷たい空気の中に溶け込んでいった。
 SNSの写真では見た事があったけれど、実物は初めて。

「これって、水蒸気だよね?」
 彼の声は明るくなっていた。
「うん、水蒸気が凍って細氷になって、それが陽の光に当たってキラキラしてるらしいよ」
 実はダイヤモンドダストについて詳しく調べた事がある。見ることが出来る条件も。
 今はどうでも良かった。ただ、今目の前にあるこの風景をふたりで見れることが、この世界をふたりだけの記憶にしまえることが、何よりも嬉しかった。

 今、彼の隣にいるのは私。この風景は一生ふたりだけのもの。

 ちらっと彼を見ると、キラキラした小さい子のような顔をしていて、まばたきするたびに凍って白くなっていたまつ毛が揺れて、可愛い天使みたいだった。
 
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