君は、幸せな人魚姫になった
図書室に入ると、いつもはカウンター席に座っている司書さんがいない。帆高は司書さんが戻ってくるのを待つことにし、それまで適当に本を読んでいようと本棚を見て回る。

すると、不意に鼻を啜る音が聞こえてきた。誰かいるのだろうか、と帆高が音のした方へ行くと、そこにはみずきがいた。一冊の本を読みながら泣いている。その本は、アンデルセン童話の人魚姫だった。

「だ、大丈夫か?」

涙を流すみずきを見ていられず、恐る恐る帆高は声をかける。顔を上げたみずきは、恥ずかしそうに涙を拭った。

「ごめん、大丈夫だよ。この童話を読むと小さい頃からいつも泣いちゃうんだよね。人魚姫が泡になって消えていくのが悲しくってさ」

みずきはいつものように笑い、本を棚に戻す。だが、その笑顔がどこか初めて会った時のようにどこか寂しげに見えて、帆高はみずきの手を掴んでいた。

「大丈夫なんかじゃないんだろ?」

帆高はみずきをまっすぐに見つめるが、みずきの顔はもういつも通りだった。

「何でもないよ」
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