君は、幸せな人魚姫になった
笑ってそう言われてしまえば、帆高はもう何も返せない。ただ「ごめん」と呟き、手を離す。

「人魚姫を小さい頃に読んだ時にね、人も死んでしまった時は泡になって消えちゃうのかなって思ったの。それが怖かったんだ。自分という存在自体が消えてしまって、みんなの記憶から「私」が消えちゃうんじゃないかって思って……」

遠くの景色を見つめるみずきを見ていて、帆高の想いは止まらなかった。否、止められなかった。寂しさを覆い隠して笑うみずきに気付いているからこそ、心からの笑顔を見せてほしいと思ったのだ。

「青井、好きだ。俺と付き合ってほしい」

帆高がそう言うと、みずきは驚いた顔を一瞬見せる。だが、それは困ったような笑みに変わってしまう。

「青山くん、一年前に比べると雰囲気が変わったね。前までより棘がなくなって、いい人になってる。私なんかじゃもったいないよ」

「そんなことない!俺、俺、こんな気持ちになるの初めてなんだ……」

みずきの肩に帆高が触れた時、みずきの持っているスクールバッグが床に落ちた。教科書や筆箱が床に散らばる。
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