君は、幸せな人魚姫になった
「あっ、ごめん」

帆高は床に落ちた荷物を拾っていく。すると、その中にピルケースに入れられた薬を見つけてしまう。帆高がそのピルケースを持った時、みずきはゆっくりと俯いた。

「どこか具合が悪いの?」

帆高が訊ねると、みずきはゆっくりと首を横に振る。だが、健康な人がこんな薬の入ったピルケースを持ち歩かないだろう。

「体調が悪いなら、早く帰って休んだ方がいいだろ。こんなクーラーがキンキンに冷えてるところなんて、体調を悪化させるんじゃーーー」

「ただの風邪だったらいいのにね」

帆高の言葉を遮り、みずきは言う。その体は小刻みに震え、唇を悔しげに噛み締めていた。

「私ね、遺伝性の難病を持ってるの。その薬は、発作を起こしてしまった時のために持ち歩いてる。でも、薬を飲んだって私の病気は治らない。……私は、長くは生きられない運命だから」

ゆっくりと顔を上げたみずきの瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。それを見た刹那、帆高の目が見開かれ、自分より少し背の低い彼女を抱き締めていた。
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