君は、幸せな人魚姫になった
「この歌声を生で聴ける日が来るなんて……！」

帆高の隣で涙を流しながらみずきが言う。その瞳はライトに照らされ、帆高の目には真珠のように見えた。人魚姫が住んでいる海に眠る宝石の一つである。

「みずき」

まるで、今にも消えていきそうな表情に、帆高はそっと手を伸ばす。頬を伝っていく涙を拭うと、みずきは寂しそうに笑う。

「どうしよう……。覚悟できていたはずなのに、帆高くんとまだ生きていたいって思っちゃう」

みずきの夢が一つ叶った一週間後、みずきは自宅の寝室で亡くなった。発作を起こして苦しんだはずなのに、表情はまるで眠っているかのように穏やかなものだったという。



「何で……」

帆高の瞳から涙が落ちていく。一度溢れた涙は止めることができず、帆高は冷たくなったみずきの手に触れる。生きている証である脈はもうない。

「みずき……みずき……」

人魚姫のように体が泡になってはいない。棺の中で眠っている。だが生きていない彼女など、突然命が消えてしまった彼女など、帆高にとっては生きていたことが幻のように思えてしまう。
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