君は、幸せな人魚姫になった
先ほどまで晴れていた空が雲に覆われていき、大雨が降り始める。まるで、帆高の心のように雨は地面に叩き付けられ、夏の街を濡らしていく。

「……馬鹿……馬鹿……」

手紙を強く抱き締め、帆高は泣きながらその場に崩れ落ちた。



そして、あの日から数年が経った。

帆高はみずきを失った絶望に苦しみながら、それでも同じ病気の人を助けたいという思いでもがき続け、医者になることができた。日々、病気の治療法を探し続けている。

職場で出会った女性と結婚し、二人の息子にも恵まれた。だが、自分がされたように勉強ばかりを押し付ける方針は取っていない。自分のしたいことを全力で取り組ませるようにしている。ーーー彼女がそうだったように。

「お父さん、お腹空いた」

ボウッとしていた帆高に仁が声をかける。太陽は先ほどの位置よりかなり動いていた。長い間、海を見ていたらしい。

「よし、なら帰ろう!」

海に背を向け、帆高と仁は走り出す。波の音と共に、みずきの声が聞こえてきたような気がした。
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