離婚前夜に身ごもったら、御曹司の過保護な溺愛に捕まりました
 智秋の指が輪郭を滑って私の顎を捉える。

 どき、と鼓動が跳ねて急に彼を直視できなくなった。

 顔が熱い。心臓がうるさい。智秋の一挙一動に反応して心がざわつく。

「咲良」

 ささやきが私の唇をなで、さらに落ち着かない気持ちにさせる。

 思わず目を閉じたが、無意識に望んでいた感触はいつまで経っても落ちてこなかった。

「そろそろ上がろうか。のぼせたら大変だ」

「そう、だね」

 先に温泉から出た智秋の背を見つめながら自分の唇を触る。

 そこに智秋のぬくもりが欲しかった。

 妻として扱うなら、混浴よりキスの方がよほどそれらしい行為ではないだろうか。

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