雪の鳥籠 ―スノウドーム―
 数日前。まだ日常は正常だった。


「月無(つきな)くん。それおもしろい?」


 放課後の図書室に流れる心地いい静寂。


 時折本のページをめくる美しい音だけが聞こえる空間にいるのは、図書委員である彼女と彼だけだった。


 月無は視線は本に向けたまま、さらりと答える。


「――そうだな。夢幻学園都市に伝わる幻想物語が興味深い」

「それ私も知ってるよ。夢幻学園都市のもう一つの名は、“雪の鳥籠(スノウドーム)”。

“咎人(とがびと)”の箱庭でしょう。でも雪なんて一度も降った事ないのに」




 今日だって空は快晴で、雲一つない。


 月無はそれには答えず本を静かに閉じ、席を立つ。




「確かに、お伽話みたいだと思うけど。

――でも現実は悪夢の塊だよ」


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