カクレンボ
「すげえうまそうだな!はやく食べよ!」

「まあそう焦らないお坊ちゃま」

「はいすいません」

 空が水族館で魚を見るようにして料理を眺めている。

「わたしもお腹減ってきた」

「じゃあたべよっか」

『いただきます!』

 チキンはスーパーのものだけど雪はそれをこんなにも綺麗に盛り付けている。どうしたらこんなアイディアが浮かんでくるのか知りたい。

 わたしは骨付きのチキンにかぶりついた。口に入れた瞬間、ありったけの肉汁が口内を泳ぎ回った。雪が下敷き代わりに敷いていたキャベツも一口たべたけれど、塩味が絶妙に効いていて美味しかった。

「あークリスマスって感じするわ」

 空が詠嘆している。どうしたらそこまで感情を表にそのまんま出すことができるのだろうか。わたしには到底無理なことだ。だからこそ羨ましいと感じるし、尊敬もする。

「クリスマスはこうでなくちゃね」

 桜もシャンメリーを飲んで炭酸に浸っている。

「雪炭酸飲めないのもったいないよな」

「ほんとよね」

 空が雪のコップをみて指を差した。

「雪って炭酸飲めなかったの?」

 わたしは知らなかった。確かに雪のコップだけシャンメリーは注がれてなくてお茶だ。それも日本人らしく緑茶。

「知らなかったの?」

 雪が目を丸くしてわたしを見る。わたしもたぶん同じような顔をしている。普段遊んでいたときも炭酸は飲んでいなかったけれど、単純に他の飲み物の方が好きなだけかと思っていた。こんなに長くいて知らなかったなんて…。新しいことを知れてうれしいという気持ちより、雪と一番長くいるわたしだけが知らなかったというのがとても恥ずかしい。
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