カクレンボ
「あーやっぱうまい」

 空がチキンにかぶりついて感嘆している。そしてシャンメリーでチキンを流し込んだ。ここだけ見ると飲み会のおじさんみたいだ。

「シャンメリー好きかも」

「ほんと?良かったね」

 雪が小さく呟いたのをわたしは聞き逃さなかった。

「乾杯」

 雪がわたしにコップを寄せてきた。雪の優しい笑顔とコップを往復してみたあと、
「乾杯」とコップを寄せた。「カチン」とガラスの響く音が耳を通過していった。

「あれ、俺らもしようぜ」

「えー?まあいいけど」

 空と桜の方からもコップの当たる音が聞こえた。桜が空とそんなことするなんて珍しい。しかも嫌そうな顔一つ見せない。いや、違う、あれは心が顔に出てるんだ。前は空となにかするってとき、必ず嫌そうな顔してた。でも本心では楽しかったはず。だって嫌そうな顔してでも何回も空とペアを組んでるんだもの。それが今回は顔に出ただけ。

「どうせなら4人で」

 桜がみんなと目を合わせてグラスを突き上げた。わたしは満面の笑みでそれに答える。
「乾杯!」

 コップの音がかき消されるほどわたしたちの声は大きかった。
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