カクレンボ

「もうお腹いっぱい」

「まだケーキがあるでしょ?今日のメインはそっちなんだから。でも食べないならうちたちが全部食べるからいいけど」

 お腹を擦る空に桜はそう言葉を積んだ。
空はバタリと背筋を伸ばして、「やっぱ甘いものは別腹だよな」とお腹をへこませた。わたしは甘党だから、桜の言うとおりケーキがメインだ。だからチキンも2個くらいしか食べなかった。

「もう食べる?」

 キッチンでお皿を一通り洗い流している雪が口を開いた。

「そう、だな。早く食べたいし、もう持ってきていいぞ」 

 お腹を触って満腹度を確認した後、空が雪に返した。わたしは可も不可でもないからなにも言わなかった。桜も私と一緒なのかわからないけど糸で縫われたみたいに口を噤んで机にだらんとしている。

「桜、お腹いっぱい?」

「いや、甘いものは別腹だから」

 桜は体を起こしてふっと息を吐く。別腹と言ってももう苦しそうだけれど。無理してるのが目に見えてわかったのでわたしは「無理したらだめだよ?」と忠告した。でも無効化だったみたいで「いや、だいじょうぶよ!」と胸を張った。 

「別に今日食べきれなくても明日食べれるから」

 眼の前にケーキの入っている箱が置かれた。箱の中からケーキが取り出され、ショーケースと全く同じきれいなケーキが目に飛び込んできた。

「食べますか!いただきます!」 

 空のスプーンが真っ先にケーキを両断した。少し大きめな一口が空の口の中へと消えていく。
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