カクレンボ
 私の苦手にならなくて良かったと。それが私の心配の種だったから。長い付き合いというのもあるけれど、雪と空、特に雪は、私の中で特別になりつつあるのをわたしは実感しないふりしてる。
『雪くん』
『空くん』
『桜ちゃん』
 いつだったっけ。皆を呼び捨てするようになったの。勿論男の子で呼び捨てするのは雪と空と楓だけ。確か一番早く呼び捨てになったのは桜。

「うちね、空が好きなんだ」
 目が覚めてこの声が聞こえたのか、この声が聞こえて目が覚めたのか私にはわからない。ただわかるのはこれが夢じゃないってこと。彼女の背中の温もりは緊張か優しさかわからない。
「やっぱり…」
 雪と話してからふたりを意識的に見るようになっていったけれど、薄々そうなのではないかと勘づいてた。
「気づいてたんだね」
 空と話すときの桜とは別人みたいに優しげの口調だ。
『好きだからちょっかいかけるんじゃない?』
 雪の言ってたことがなんとなくわかるような気がする。そういうことだったんだって気付かされる。
「空のどこを好きになったの?」
「やっぱり慣れないなぁ呼び捨て」
「ん?」
 質問と全く関係なさそうな答えが帰ってきてちょっと戸惑った。今まで持ち上がっていた首が疲れてきたので桜の肩に首を置き完全に身を委ねた。
「華がみんなを呼び捨てにするの。うちは昔のほうがいいかなーって」
「桜、ちゃん…?」
 もう何年もの付き合いがあるのに呼び捨てからちゃんくん付に戻すのって、違和感すごい気がするのは私だけだろうか。今更感がすごい気がする。
「あーいいね。懐かしい」
 変えたら、変わってないときに戻るという不思議な空間が私達を包み込む。
「理由なんてないわよ。ここまで長いこと一緒にいるんだし。ただね」
 わたしは目を寄せてさくらちゃんを見る。
「好きだってことだけはわかるの。紛れもない気持ちだってことだけは、はっきりとわかるの」
 はっきりとした気持ち…。私にはまだない。そんな気持ちを持ったことはない。同い年のはずなのに、私よりも桜ちゃんのほうがよっぽど大人っぽい。
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