ボレロ  ~智之の母、悦子の章

「私 自分の親を 見くびっていたって その時 本気で思ったわ。私の父は

『ウチは 政之君の親御さんが 認めない結婚なら 許すことはできない。二人が どうしても結婚したいのなら まず 政之君の親御さんを 説得してから もう一度 来なさい。』って。そう 政之さんに言ったの。

『わかりました。必ず 両親の許可を取って もう一度 伺います。』って。政之さんは 大きく頷いたわ。

私の父は 廣澤のご両親が 結婚を 認めるはずないって 思っていたのね。だから それは 結婚を 断る口実だったのよねぇ…」



「それから 政之さんは ご両親に結婚のことを 話したらしいの。

『結婚したい人がいます。会ってもらえますか?』って。その時 廣澤の義父は

『どんな家の娘だ?』って 聞いたんですって。私本人のことより 私の実家を聞かれて 政之さんは “ あぁ やっぱり ”って 思ったらしいわ。

『どんな人なんだ、じゃないんですね。相手の人よりも 実家のほうが 気になるんですか?』って。

ちょっとムキになって 言い返したみたい。でも 廣澤の義父は そんなことじゃ 怯まなくて。

『当たり前だろう。政之は ウチに 相応しい家の娘と 結婚させるつもりだ。』って 言われたって。

政之さん 第一段階は 見事に玉砕。

『俺は 悦子以外の人と 結婚はしません。』って言うのが 精一杯だったみたい。」


「私は私で 自分の親に 反対されたことが すごくショックだったの。私の両親は 政之さんのことを よく知っていたから。たとえ 廣澤工業の息子だって 知っても 政之さんを 信頼しくれると 思っていたの。
結婚って 家と家の縁組っていう 感覚は なかなか 消えないのね。恋愛結婚とか 核家族とか そういう風潮に なってきていると 思っていたんだけど。まだまだ 古い習慣は 残っていたのよ。
最も 私の親達の世代は 恋愛結婚なんて できなかったらしいから。少しずつ 進歩は していたんだけど… 私も 家族と縁を切ることに なるのかなぁなんて 漠然と 考えていたわ。」








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