ボレロ  ~智之の母、悦子の章

「お義姉さん 毎年 夏休みに 長い帰国をするようなって。意地悪は どんどんエスカレートしていったわ。紀之と智之も だんだん 物がわかるようになるじゃない。
いつもは 紀之達のことを 可愛がっている 廣澤の義母も お義姉さん達がいると 近寄らなくなって。子供ながらに 不思議に思うのよね。そもそも お義姉さんと千恵ちゃんが 紀之達と 一切 係わらないことが 不思議だったろうし。
『ねぇ、お父さん。僕と千恵ちゃんって 従姉弟なんでしょう。どうして 千恵ちゃんは 僕たちと遊ばないの?』なんて 紀之が 政之さんに聞いていたわ。
私の兄には 女の子が2人いてね。たまに会うと よく遊んでいたから。紀之達は 従姉弟って そういうものだと 思っていたのね。だから 千恵ちゃんとも 仲良くするつもりだったのよ 子供ながらに。
『千恵ちゃんは 日本に慣れてないから うまく遊べないんだよ。』なんて。フフフ。政之さんは 苦し紛れに 誤魔化していたわ。」


「お義姉さん達、毎日 3人で出かけるのよ。廣澤の義母と千恵ちゃんで。家の中にばかり いられないし。千恵ちゃんだって 飽きちゃうじゃない。よくデパートに 行っていたみたい。いつも たくさんの 紙袋を下げて 帰ってきたから。
それでね 3人分のおやつを買ってきて 3人で 食べるのよ。義母の部屋で。
私 それが嫌でねぇ。お金はあるのに。私の分は ともかく、紀之達の分くらい 買ってくれたらいいじゃない、廣澤の義母も。
いくら 自分達の部屋で 食べていても ゴミだって出るし。紀之達も 気付くのよ。いくらなんでも 大人げないでしょう。お義姉さんの 言うなりになる 義母のことも 信じられなかったわ。
『昨日 お祖母ちゃんたち 3人でケーキ食べていたんだよ。』なんて 紀之が 政之さんに言うのよ。朝ご飯の時に。政之さん すごく困った顔して。
『紀君と智君にも お母さんが ケーキ買あげたじゃない。』って 私が言うと ホッとした顔になるの。
『そうか。紀之達も ケーキ食べられて 良かったなぁ。』なんて。
翌年からよ。私達が 夏になると 軽井沢に行くようになったの。お義姉さん達が 来る前に 私達は 軽井沢に行って。お義姉さんが 帰った後で ここに戻るようにしたの。政之さんも 週末は 軽井沢に来てくれて。やっと お義姉さんから 解放されたの、私。」



 

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