ボレロ  ~智之の母、悦子の章

「その頃 お義姉さんの意地悪は 普通じゃなかったわ。私が 玄関の花を 生け替えると お義姉さんは それを捨てて 違う花を 生け直したり。私 さっき生けた花が ゴミ箱に捨てられていて。びっくりしたわ。いくら 私が嫌いでも まだ新しいお花が 可哀そうじゃない。取り出して 自分の部屋に 生けたわよ、私。
洗濯もね その頃は 全部 庭に干していたの。お義姉さん 自分の洗濯物は 女中さんに頼んで 私には 洗わせなかったけど。私が 洗濯物を 干した後に お義姉さん達の洗濯が 終わるでしょう。そうすると 私達の洗濯物を 日陰に退かすのよ。それで 自分達の物を 前に干すの。本当に 驚いちゃうわ。それから 私達の物は 二階のベランダに 干すようにしたのよ。お義姉さんが いる時は。
子供みたいでしょう。よっぽど 私のことが 嫌いだったのね。それにしても すごい意地悪よね。」


「私 もう いちいち 政之さんには 告げ口しなくなっていたの。初めて お義姉さんに 無視された時より 強くなったし。男の子を二人産んで 育てているんだもの。いつまでも メソメソしたままじゃ いられないわ。
政之さんは 社長に就任する準備を 始めていて。仕事が大変な時期だったから。私 少しでも 政之さんの力になりたいって 思っていたの。家庭のことで 政之さんに 心配かけたくなかったし。
でも 政之さんは さり気なく 女中さんに聞いていたみたい。紀之達も 政之さんに話していたから。自然と わかっていたのね。私の我慢を。
だからって 廣澤の義母や お義姉さんを 変えることなんて できないでしょう。それなら 私達が 近くにいなければいいって 思ってくれたのね。私を守るって 約束してくれたから。おかげで 私にとって 夏が恐怖じゃなくなったわ。麻有ちゃんとも 知り合えたしね。」


お母様は 優しい目で 私を見て 頷いた。


あの時 私は お母様の生活に 憧れたけれど。


まだ子供で お母様が 背負っていた

苦労なんて 何にも 気付かずに…





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