ボレロ ~智之の母、悦子の章
「そのうち お義兄さん 日本勤務になって。お義姉さん一家は 帰国したわ。お義姉さん達 目黒に家を建てて。いつでも 来れるようになると 案外 実家なんて 来ないものなのね。昼間 義母の所に 来ることはあったけど。泊まることは なかったし。義母とは 時々 外で会っていたみたい。お芝居や買い物に行ったり。
義母は お義姉さんがいないと 私にも 案外 優しかったわ。私 表面上は 廣澤の義母と うまくやっていたの。でも 義母に対する 不信感は どうしても 消えなかった… 義母が亡くなるまで ずっと。
政之さんを 産んだ人だから。なんとか 理解しようって 努力したけど。お義姉さんと一緒になって 私を無視した義母を 心から 信じることなんて やっぱりできなかったの。」
「廣澤の義父や義母とは 自分の親よりも 長い時間 一緒に暮らしたじゃない。義父や義母は 驚いていたかもしれないわ。本当は 廣澤家に 嫁げるような身分じゃない私を 貰ってあげたのに。いつの間にか 私 どんどん強くなるから。態度も大きくなって。こんなはずじゃないって 思っていたかもね。
でも 私だって いつまでも 弱いお嫁さんのままじゃ いられないわよ。政之さんが 社長を継いでから 会社の業績も 伸びていたし。高度成長期だったから。政之さん 上手く 時代の波に乗れたの。私は 紀之達を 後継者に相応しく 育てなければいけないもの。強くなっちゃうわ。
政之さん 仕事で 大きな山場を 乗り越えた時とか いつも 私に お礼を言ってくれたわ。私が きちんと家庭を 守ってくれるから 安心して 仕事に集中できるって。政之さんが そう思えるくらい 私も 義父や義母と 仲良くできていたのよ。」