ボレロ ~智之の母、悦子の章
「私 真面目な学生だったから。一生懸命 講義を聴いていたの。チラッと お父さんの方を見ると ノートに 落書きしてるの。小学生みたいに。フフッ。私 思わず クスッと笑っちゃって。そうしたら お父さんが 小さな声で 『おかしい?』って 聞くのよ。私も 小さな声で 『はい。』って答えて。そのまま 少し話したの。自己紹介 みたいなこと。お互いの 名前とか学部とか。でも それだけ。授業が終わると そのまま 別々の友達と 合流して。」
「お父さんは 友達が たくさんいて。何となく 垢抜けていて。あぁ、付属上がりの人は やっぱり違うなぁ、って。私は やっと打ち解けた 数人の女子学生と 探り探り 仲良くし始めた時だったのに。まぁ 別世界の人だから それで良かったんだけどね。すごく感じの良い人だなって 思ったけど。私の中では その程度の出会いだったの。」
「お父様が お母様に 一目惚れしたんだわ。」
私が言うと お母様は クスクス笑い
「それじゃ 紀之と同じね。」
とお姉様を見た。
「やだ、麻有ちゃん。お母様も。」
照れて 頬を染めるお姉様。
嫁・姑なのに。
女子高生みたいに 昔の恋の話しが できるなんて。
奇跡みたいな関係だから。
私は こういう時間が 大好きだった。