イカれ恋人
イカれ恋人
元々人助けって性にあわないんだよ。

でもあの日は何故か余計なことをしてしまった。



電車内で男女が喧嘩していた。

いや、喧嘩じゃなかったのかもしれないな。

だって男の方ばかり怒ってたから。

女はやけに顔色が悪くてブルブル震えている。


別に他人のことだし、その女性がこんな人前で怒鳴り散らすクズとどうなろうが関係ないからしばらく放っておいた。

他の乗客もそうだろう。

しかしその日の僕は寝不足。

死ぬほど忙しかった仕事がひと段落して、ようやく家に帰って寝られるっていう日。

当然心身ともに最低なコンディションだ。


「うるさい、よそでやれ」


思わず男の方に言ってしまった。

彼は突然黙り込んで、小さな声で『………すいません』と謝った。

なんだ思ったより素直な奴じゃないか。

単に彼女にしか、でかい顔のできないチキン野郎なのかもしれないが。
< 6 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop