イカれ恋人
そんなことを考えながら、数駅行ったところで降りた。


「あの!」


声をかけられた。

振り向くとさっきの男だ。

女はいない。


「さっきは、その……すいませんでしたっ!」


勢いよく頭を下げた男を、僕は呆気に取られて見ていた。

「あの。お詫びと言ってはアレなんですけど」と言いながら、取り出したのが映画のチケット。


「彼女と行くはずだったんですけど……」



さっきは恋人に浮気されて、カッとなって怒鳴りつけたらしい。

なんで僕に?とは思ったが、気になってた映画だし週末は久しぶりに休みだ。

特に予定はない。


深く考えずに、笑顔を浮かべて受け取る。


「じゃあ日曜日。そうだ。LINE交換、しましょ?」


男はその手を強く掴んで引き寄せた。

そして微笑む。

悪魔のような笑顔で。
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