彼、予約済みです。
お開きの時間になり、女子は男子が送っていこうという話になった。

すると宇野が勢いよく手を挙げた。

「俺、実栗ちゃん送ってく!」

またお前か。

と思い、ため息が出そうになるがぐっと堪えた。

さすがに俺も最後の最後まで宇野に振り回されるのは嫌なのですぐにこう言った。

「いや、日南さんは俺が送る。宇野は他の子送ってあげて」

そう言うと宇野はなんでだと喚いたが、ハルの彼女のアシストもあり日南さんと帰ることになった。


(送っていくことにしたのはいいけど何話したらいいかわかんねぇ⋯⋯)

隣を歩く日南さんに歩幅を合わせながら俺はどうしたものかと考えていた。

ここまで来て何も進展がないのは嫌なので意を決して口を開く。

「⋯⋯日南さんさ」

「は、はいっ!?」

いきなり俺が声をかけたから驚いたようだ。

「毎朝俺と同じ電車に乗ってるよね?」

「へっ?」

思ったよりも気の抜けた返事が返ってきて笑いそうになる。

が、我慢だ我慢。

「あれ、違った?」

平常心を装い、話を続ける。

「お、同じ電車に乗ってます!」

「やっぱり?よかった、日南さんが俺のこと覚えててくれて」

我ながらあざといとは思う。

だがこうでもしないときっと何の進展もないままだ。

「そっか⋯⋯は〜⋯⋯」

「み、湊さんっ!?」

このチャンスを逃したらきっともう何も起こらないままだ。

「よかった⋯⋯」

「な、何がですか?」

「だってこの前電車で合コンに行くって話してたでしょ。よかった、俺がいるやつで」

チャンスをモノにするため、俺は生きてきた中で一番の勇気を振り絞る。

「日南さん、彼氏って俺でもアリ?」

「⋯⋯へ?」

もう一度言う。

我ながらあざとい。
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