彼、予約済みです。
浮き輪に掴まり、海水に浮きながら考える。

湊さんは私のどこがそんなに気に入ったのだろう。

そんなに好かれるようなことをした覚えはないのに。

「不思議だなあ」

誰かに言った訳でもなく何となく呟いた。

でも湊さんはそれを聞いていたらしい。

「何が不思議なの?」

キョトンとした顔で覗き込まれて、思わず正直に答えそうになる。

「えっと⋯⋯なんでもないですっ!」

本人に聞くのが一番いいんだろうけど、「私のどこが好きなんですか?」なんて、聞けるわけがない。


お昼時になり、お昼ご飯を食べることになった。

「日南さん、何が食べたい?」

湊さんにそう聞かれて少し考える。

けれど何も浮かばない。

「思いつかない?」

そう聞かれ、静かに頷く。

すると湊さんは少し考え込みはじめた。

「あの、食べたいものがないっていうよりも、お腹があまり空いてなくて⋯⋯」

「お腹空いてないのに無理やり食べるのもなあ⋯⋯。とりあえず買ってみようか。食べれなかったら食べなくていいから」

私が食べれなかった分はどうするつもりなのだろうか。

そのことについて心配していると、湊さんは私が考えていることがわかったようで、こう言った。

「大丈夫だよ。日南さんが食べなかった分は俺がきちんと食べるから。スポーツやってるせいか、食欲だけはあるんだよね」

なぜこの人はこんなにも私のことをわかってくれるのか不思議でならない。
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