彼、予約済みです。
「ええと⋯⋯一応、友達と来てて」

そう言えば引き下がってくれるかも、と思ったけれど引き下がらないのがナンパだ。

「だったらお友達も一緒に遊ぼーよ。俺らとなら絶対今より楽しくなるよ?」

止める間もなく、腕を掴まれ引っ張られる。

「痛っ⋯⋯」

すると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。

「実栗!」

私が一番好きな声。

名前を呼ばれただけなのに心臓が跳ねる。

「これ、俺のなんだけど」

「湊さん⋯⋯っ」

さっきまでは湊さんといるとドキドキして仕方なかったのに今は逆に落ち着く。

「な、何だよ。男連れかよ」そう言いながらナンパ師たちは人混みの中に消えていった。

「湊さん、来てくれてありがとうございま⋯⋯」そう私が言い終わる前に湊さんは私の手を握り、引っ張っていく。

「ちょ、湊さん⋯⋯!?」

湊さんは前を向いたまま振り向かない。

何かしちゃったのだろうか、と思い俯く。

すると湊さんに握られた手が目に入る。

さっき知らない人に掴まれた時はあんなに嫌だったのに湊さんは全然嫌じゃない。

寧ろ心地よい。
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