彼、予約済みです。
少し時間が経ったところで席替えをしようという話になった。

私はもちろん湊さんの隣⋯⋯と言いたいところだけどさっき話しかけてきた人の隣になってしまった。

「よろしくねー、実栗ちゃん!」

「はい⋯⋯」

湊さんはというと他の女の子に捕まっていた。

(ああっやめて、そんなにベタベタしないでー!)

そう悶々としていると私の意識が別のところにあるのに気が付いたのか、男性が「今は俺が隣にいるんだから俺と話しようよ」と、言ってきた。

「あ、すみません⋯⋯」

そう言われても湊さんのことが気になってしまうのだから仕方ない。

「ちょっと、聞いてる?実栗ちゃん」

そう言って私の手を握ってきた。

(無理無理無理!なんで好きでもない人に手握られてるの、私!)

「お前今日ちょっと調子乗りすぎ」

そう後ろから言ってきたのは湊さんだった。

「日南さん嫌がってるだろ」

さっきといい、今といい、何回も助けられて嬉しくて涙が出そうになる。

「えっ実栗ちゃん嫌だった!?」

「嫌というか⋯⋯手は離していただけるとありがたい、です」

そう言うとショックを受けたようでこちらが申し訳なくなる。

「日南さんごめんね、宇野も悪気があってやってる訳じゃないんだ」

「い、いえ⋯⋯!大丈夫、です」

思いがけず湊さんと話すことができて緊張してしまう。

(ていうかこの人宇野って言うんだ⋯⋯)

「それならよかった」

優しそうにふわりと笑う湊さんにドキッとしてしまう。

私は本当にこの人を諦められるのだろうか。
< 9 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop