とある高校生の日常短編集
しまえながちゃん
ある日の放課後、生徒会室にて。
今日は生徒会室で、風紀委員と生徒会が月一で開かれる会議の日。
「……という事で、よろしくお願いしますね」
『はーい』
丁度会議が終わったところのようで、全員筆記用具をまとめていた。悠貴も自身の目の前に広げられている筆記用具類をまとめようとしたが、その時ふと、隣に座っているすみれの文房具が目に止まった。
「……すみれって、その白い鳥が好きだよね」
「鳥? ああ、これ?」
すみれはそう言うと、シャーペンを1つ悠貴の前に差し出した。
「シマエナガの、しまえながちゃんだよ」
「……んーと? シマエナガのシマエナガちゃん?」
なぜ同じ音を2度も繰り返したんだと首を傾げる悠貴。すると、すみれは「違うよ」と笑った。
「この子は、平仮名表記のしまえながちゃん。本家の方は片仮名表記なんだけど、この子は平仮名表記なんだ」
すみれの説明に、悠貴は成程と納得する。そして、改めてすみれの文房具を眺めた。先程見せてもらったシャーペンもそうだが、その他にボールペンや消しゴム、下敷きまでしまえながちゃんで埋め尽くされている。筆箱も、筆箱についているキーホルダーもしまえながちゃんだ。
「……本当に好きなんだね、しまえながちゃん」
ポツっと悠貴が呟く。すると、すみれは満面の笑みで「そうなの!」と返してきた。
「かーわいいでしょ? 別名雪の妖精と言われるシマエナガを、そのまんまマスコット化したやつなんだ!」
すみれはそう言うと、筆箱についているマスコットを悠貴の前に差し出した。白くてふわふわしているマスコットだ。
「……そ、そうだね、カワイイネ……」
しかし、男子の悠貴に「かわいい」について同意を求められても共感できず、つい棒読みで返してしまう悠貴。すると、すみれの頬が少し膨れる。
「むぅ……まぁ、興味ないか……」
そういって筆箱を自分の前に戻すすみれ。ちょっと悪いことをしたかなぁ……と悠貴が思ったとき、何かが悠貴の足を思いっきり蹴飛ばした。
「いだっ……?!」
「そういえば南雲さん。そのしまえながちゃんは、いつ頃からハマりだしたんですか?」
悠貴の悲鳴をかき消すように話し出したのは、彼を蹴り飛ばした張本人でもある副島だった。
「うーん……本格的にハマりだしたのは、三年になってからかなぁ? 存在自体は前から知っていたんだけど」
「ほう、成程」
「でもね、最近出来たショッピングセンターに、しまえながちゃんショップが出来て! それで、そっから文房具とかを買い始めたんだ!」
「ああ、あそこに入ったんですね」
「そうなんだよ!」
副島とにっこにこの笑顔で話すすみれ。副島も微笑みながら話をしている。そんな彼を、悠貴は無言で恨めしそうに睨んだ。
「では、お姉様。そろそろ戻りましょう」
「あ、そうだね。それじゃ」
そして、六花に連れられて、すれみは生徒会室から出て行った。
「……なんで俺の足を蹴るかな! 和春!!」
すみれ達が立ち去って数十秒後、悠貴は副島にかみつくように叫んだ。しかし、副島はしれっとしており。
「折角話題を見つけたというのに、まさか秒で終わらせるとは思わなかったからですよ」
「うぐ……いや、だって俺、ああいうの、よく分からないし……」
悠貴の言い訳に、副島は溜め息をついた。
「だから、ああして見本を提示したんです。今後、是非ともご活用ください」
「……分かったよ」
何だかんだ、副島に言い負かされてしまう悠貴。それ以上何も言えなくなり、自分の文房具類の片付けを始めた。
(しまえながちゃん、かぁ……)
あの後、生徒会を終えた悠貴は、一人駅前のショッピングセンターに立ち寄っていた。ちなみに、先ほどすみれが言っていた「新しくできたショッピングセンター」は、ここの事ではない。
(つーか、俺だってすみれとあれ以上話せるなら話したかったっつーの……たく、和春の奴め……)
先ほどの事を思い出しながら、一人エスカレーターに乗って上の階へと向かう悠貴。
(まぁ、次はあんな風に話題を続けりゃいいんだって、遠回しに教えてくれたから、見習うっちゃ見習うけど……)
エスカレーターを降り、スタスタと歩く。そして辿り着いたのは、人気マスコットキャラクターが一通り販売されてるお店だった。悠貴はその中に入ると、一角にある白い鳥……しまえながちゃんコーナーへ向かう。
(へー……これが、しまえながちゃんグッズ……すげぇいっぱいあるなぁ……)
キーホルダーやらぬいぐるみやらが置かれているそのコーナーに、ほんの少しだけ文房具が置かれていた。シャーペン、ボールペン、消しゴムと、必要最低限の物しかないが。
(こういうのって、ネットの通販とかで売ってんじゃね? 調べたら出てきそうだけど……)
悠貴はおもむろに、キーホルダーを一つ手にとった。それは、すみれの筆箱についていたあのマスコットの少し大きな物で、もふもふとした手触りがとても気持ちいい。
(とりあえず、今年の誕プレはしまえながちゃんで攻めれば……あー、でも、他の人とかぶりそうだな……うーん、そしたら……)
「あれ? 悠貴」
「うぉわっ?!」
考え事をしていると、突然背後から声をかけられる。悠貴は驚きで変な声を上げた。
「って何だ、すみれかよ……びっくりさせんなって……」
「え? 何で? 声かけただけなのに?」
悠貴が胸をなで下ろすと、すみれは首を傾げる。
「ああ、いや、ごめん。ちょっと考え事をしてて……」
「あ、そうだったんだ。もしかして買うか悩んでいたの? それ」
”それ”と言われて、悠貴は首を傾げる。すると、すみれが悠貴の手の中にある物を指さした。
「その”ふわっふわ! しまえながちゃんぬいぐるみ”キーホルダー」
名前まで言われて、悠貴は「え?」と呟きながら自分の手元を見る。どうやら先ほどキーホルダーを手にしたのは、ほぼ無意識だったようだ。
「あれ、本当だ。俺、いつの間に持っていたんだろう……」
悠貴がそういうと、すみれが隣に来て悠貴の手の中をのぞき込んだ。
「私もね、それ買おうか悩んでいたんだよね……」
そういって、うらやましそうにキーホルダーを見つめるすみれ。
「買わないんだ?」
「いや、悩んでいるんだ……最近、しまえながちゃんグッズにお金かけ過ぎちゃったから、ちょいと自重しないとまずいかなって……まぁ、それを買うくらいの余裕は、無いことはないんだけど……」
話しながらも、じーっと悠貴の手中にあるキーホルダーを見つめるすみれ。
「うーん……悠貴ならどうする?」
そして不意に顔を上げて尋ねられる。悠貴は「ぅえ? 俺?」と変な声で返した。
「そうだなぁ……まぁ、よく”買わずに後悔するなら買って後悔しろ”とは言うから、買ってもいいんじゃないか、とは思うけど……個人のお金のやりくりとかもあるだろうし」
悠貴がそう答えると、すみれは「そっか……」と言って、またキーホルダーに目を落とした。
「……」
よっぽど真剣に悩んでいるのか、ガン見し続けるすみれ。そんなすみれの様子に、悠貴も動けなくなってしまう。
(どうしよう、動けない……)
どうしたものかと思ったとき、悠貴は閃いた。
「あー、俺も買おっかなー、しまえながちゃんぬいぐるみ」
どこか棒読みに聞こえなくもない悠貴の発言に、すみれが「え?」と顔を上げた。悠貴はそれを視界の端でちらっと確認しつつ、さりげなくもう一つキーホルダーを手に取る。そして、そのままスタスタとレジへ向かった。
「ありがとうございましたー」
会計を済ませると、女性店員がぺこりと頭を下げる。悠貴は、すみれの所に戻った。
「……本当に買ったんだ、それ……」
「んー? まぁね。別に男が買っちゃいけないわけでもないし」
悠貴はそういうと、キーホルダーが入った紙袋をわざとらしく手に乗せて、そのままお店から出た。すると、その後をすみれが慌てて追いかける。
「ね、ねぇ、悠貴!」
「ん?」
すみれに呼び止められるも、悠貴は足を止めることなく返事だけする。すみれは、慌てて悠貴の隣に並んだ。
「キーホルダー、二個も買ってたけど……一個誰かにあげるの?」
「え? 二個?」
すみれの質問に、「ウソだ~」と言わんばかりの顔で紙袋の中を覗く悠貴。そして、「あっ」という声を上げた。
「やべ、やっちまった。一個だけ買ったつもりだったのに、二個買ってた」
「……何その、まれに見るドジっ子は……」
すみれの声が冷ややかに聞こえるが、そこはあえて無視をして。悠貴はキーホルダーを一つ取り出すと、すみれの前に差し出した。
「流石に二個もいらないから、やるよ」
悠貴がそういうと、すみれは驚いたように瞳を瞬かせる。悠貴はすみれがキーホルダーを受け取るのを待っていたが、あまりにも動きがないので思わずそっと投げ渡した。
「おわっと! ちょっと、しまえながちゃんを雑に扱わないでよ!」
「あー、ごめんごめん。手が滑っちゃって」
すみれにそう言い訳をする悠貴は、真っ正面を向いていて。すみれの方に振り向くそぶりは見られない。
「……で、本当にいいの? 貰っちゃっても」
「いいよ。そもそもダメだったら、容易にあげたりしないし」
ここでやっと、すみれの方をちらりと見た悠貴。そこですみれは察した。
「……分かったよ。まれに見るドジっ子悠貴の為に、このしまえながちゃんは、私が大切に頂きますんで」
「おう、お願いしますよー」
悠貴はまだ正面を見ている。髪で耳が隠れているから見えないが、きっとその耳は赤くなっているだろう。
「……ねぇ、悠貴」
「ん?」
名前を呼んでも、やはりすみれの方に振り向かない悠貴。すみれはそのまま続けた。
「……ありがとね」
すみれが笑顔でお礼を言う。悠貴は「おう」としか言わなかったが。
「よぅし! うちに帰ったら、しまえながちゃんコレクションに加えて記念撮影だー!」
「……そんなにあるの?」
「ん? まぁ、そこそこかな。写真撮ったら送りつけるから」
「いや、別に――」
「楽しみにしててね~」
「……あーはいはい。楽しみにしておきます……」
「うわー……超棒読みじゃんこの人……」
……こうして二人は、そのまま帰路についた。
(……勢いで買って渡したけど、これって、もしかしなくても、俺とすみれのお揃いって奴だよな……!!)
(どうしよう、悠貴からのプレゼントしまえながちゃん……しかも、悠貴とお揃いの、しまえながちゃん……!!)
……と、お互いに心の中で赤面していたのは、当人だけの秘密。
今日は生徒会室で、風紀委員と生徒会が月一で開かれる会議の日。
「……という事で、よろしくお願いしますね」
『はーい』
丁度会議が終わったところのようで、全員筆記用具をまとめていた。悠貴も自身の目の前に広げられている筆記用具類をまとめようとしたが、その時ふと、隣に座っているすみれの文房具が目に止まった。
「……すみれって、その白い鳥が好きだよね」
「鳥? ああ、これ?」
すみれはそう言うと、シャーペンを1つ悠貴の前に差し出した。
「シマエナガの、しまえながちゃんだよ」
「……んーと? シマエナガのシマエナガちゃん?」
なぜ同じ音を2度も繰り返したんだと首を傾げる悠貴。すると、すみれは「違うよ」と笑った。
「この子は、平仮名表記のしまえながちゃん。本家の方は片仮名表記なんだけど、この子は平仮名表記なんだ」
すみれの説明に、悠貴は成程と納得する。そして、改めてすみれの文房具を眺めた。先程見せてもらったシャーペンもそうだが、その他にボールペンや消しゴム、下敷きまでしまえながちゃんで埋め尽くされている。筆箱も、筆箱についているキーホルダーもしまえながちゃんだ。
「……本当に好きなんだね、しまえながちゃん」
ポツっと悠貴が呟く。すると、すみれは満面の笑みで「そうなの!」と返してきた。
「かーわいいでしょ? 別名雪の妖精と言われるシマエナガを、そのまんまマスコット化したやつなんだ!」
すみれはそう言うと、筆箱についているマスコットを悠貴の前に差し出した。白くてふわふわしているマスコットだ。
「……そ、そうだね、カワイイネ……」
しかし、男子の悠貴に「かわいい」について同意を求められても共感できず、つい棒読みで返してしまう悠貴。すると、すみれの頬が少し膨れる。
「むぅ……まぁ、興味ないか……」
そういって筆箱を自分の前に戻すすみれ。ちょっと悪いことをしたかなぁ……と悠貴が思ったとき、何かが悠貴の足を思いっきり蹴飛ばした。
「いだっ……?!」
「そういえば南雲さん。そのしまえながちゃんは、いつ頃からハマりだしたんですか?」
悠貴の悲鳴をかき消すように話し出したのは、彼を蹴り飛ばした張本人でもある副島だった。
「うーん……本格的にハマりだしたのは、三年になってからかなぁ? 存在自体は前から知っていたんだけど」
「ほう、成程」
「でもね、最近出来たショッピングセンターに、しまえながちゃんショップが出来て! それで、そっから文房具とかを買い始めたんだ!」
「ああ、あそこに入ったんですね」
「そうなんだよ!」
副島とにっこにこの笑顔で話すすみれ。副島も微笑みながら話をしている。そんな彼を、悠貴は無言で恨めしそうに睨んだ。
「では、お姉様。そろそろ戻りましょう」
「あ、そうだね。それじゃ」
そして、六花に連れられて、すれみは生徒会室から出て行った。
「……なんで俺の足を蹴るかな! 和春!!」
すみれ達が立ち去って数十秒後、悠貴は副島にかみつくように叫んだ。しかし、副島はしれっとしており。
「折角話題を見つけたというのに、まさか秒で終わらせるとは思わなかったからですよ」
「うぐ……いや、だって俺、ああいうの、よく分からないし……」
悠貴の言い訳に、副島は溜め息をついた。
「だから、ああして見本を提示したんです。今後、是非ともご活用ください」
「……分かったよ」
何だかんだ、副島に言い負かされてしまう悠貴。それ以上何も言えなくなり、自分の文房具類の片付けを始めた。
(しまえながちゃん、かぁ……)
あの後、生徒会を終えた悠貴は、一人駅前のショッピングセンターに立ち寄っていた。ちなみに、先ほどすみれが言っていた「新しくできたショッピングセンター」は、ここの事ではない。
(つーか、俺だってすみれとあれ以上話せるなら話したかったっつーの……たく、和春の奴め……)
先ほどの事を思い出しながら、一人エスカレーターに乗って上の階へと向かう悠貴。
(まぁ、次はあんな風に話題を続けりゃいいんだって、遠回しに教えてくれたから、見習うっちゃ見習うけど……)
エスカレーターを降り、スタスタと歩く。そして辿り着いたのは、人気マスコットキャラクターが一通り販売されてるお店だった。悠貴はその中に入ると、一角にある白い鳥……しまえながちゃんコーナーへ向かう。
(へー……これが、しまえながちゃんグッズ……すげぇいっぱいあるなぁ……)
キーホルダーやらぬいぐるみやらが置かれているそのコーナーに、ほんの少しだけ文房具が置かれていた。シャーペン、ボールペン、消しゴムと、必要最低限の物しかないが。
(こういうのって、ネットの通販とかで売ってんじゃね? 調べたら出てきそうだけど……)
悠貴はおもむろに、キーホルダーを一つ手にとった。それは、すみれの筆箱についていたあのマスコットの少し大きな物で、もふもふとした手触りがとても気持ちいい。
(とりあえず、今年の誕プレはしまえながちゃんで攻めれば……あー、でも、他の人とかぶりそうだな……うーん、そしたら……)
「あれ? 悠貴」
「うぉわっ?!」
考え事をしていると、突然背後から声をかけられる。悠貴は驚きで変な声を上げた。
「って何だ、すみれかよ……びっくりさせんなって……」
「え? 何で? 声かけただけなのに?」
悠貴が胸をなで下ろすと、すみれは首を傾げる。
「ああ、いや、ごめん。ちょっと考え事をしてて……」
「あ、そうだったんだ。もしかして買うか悩んでいたの? それ」
”それ”と言われて、悠貴は首を傾げる。すると、すみれが悠貴の手の中にある物を指さした。
「その”ふわっふわ! しまえながちゃんぬいぐるみ”キーホルダー」
名前まで言われて、悠貴は「え?」と呟きながら自分の手元を見る。どうやら先ほどキーホルダーを手にしたのは、ほぼ無意識だったようだ。
「あれ、本当だ。俺、いつの間に持っていたんだろう……」
悠貴がそういうと、すみれが隣に来て悠貴の手の中をのぞき込んだ。
「私もね、それ買おうか悩んでいたんだよね……」
そういって、うらやましそうにキーホルダーを見つめるすみれ。
「買わないんだ?」
「いや、悩んでいるんだ……最近、しまえながちゃんグッズにお金かけ過ぎちゃったから、ちょいと自重しないとまずいかなって……まぁ、それを買うくらいの余裕は、無いことはないんだけど……」
話しながらも、じーっと悠貴の手中にあるキーホルダーを見つめるすみれ。
「うーん……悠貴ならどうする?」
そして不意に顔を上げて尋ねられる。悠貴は「ぅえ? 俺?」と変な声で返した。
「そうだなぁ……まぁ、よく”買わずに後悔するなら買って後悔しろ”とは言うから、買ってもいいんじゃないか、とは思うけど……個人のお金のやりくりとかもあるだろうし」
悠貴がそう答えると、すみれは「そっか……」と言って、またキーホルダーに目を落とした。
「……」
よっぽど真剣に悩んでいるのか、ガン見し続けるすみれ。そんなすみれの様子に、悠貴も動けなくなってしまう。
(どうしよう、動けない……)
どうしたものかと思ったとき、悠貴は閃いた。
「あー、俺も買おっかなー、しまえながちゃんぬいぐるみ」
どこか棒読みに聞こえなくもない悠貴の発言に、すみれが「え?」と顔を上げた。悠貴はそれを視界の端でちらっと確認しつつ、さりげなくもう一つキーホルダーを手に取る。そして、そのままスタスタとレジへ向かった。
「ありがとうございましたー」
会計を済ませると、女性店員がぺこりと頭を下げる。悠貴は、すみれの所に戻った。
「……本当に買ったんだ、それ……」
「んー? まぁね。別に男が買っちゃいけないわけでもないし」
悠貴はそういうと、キーホルダーが入った紙袋をわざとらしく手に乗せて、そのままお店から出た。すると、その後をすみれが慌てて追いかける。
「ね、ねぇ、悠貴!」
「ん?」
すみれに呼び止められるも、悠貴は足を止めることなく返事だけする。すみれは、慌てて悠貴の隣に並んだ。
「キーホルダー、二個も買ってたけど……一個誰かにあげるの?」
「え? 二個?」
すみれの質問に、「ウソだ~」と言わんばかりの顔で紙袋の中を覗く悠貴。そして、「あっ」という声を上げた。
「やべ、やっちまった。一個だけ買ったつもりだったのに、二個買ってた」
「……何その、まれに見るドジっ子は……」
すみれの声が冷ややかに聞こえるが、そこはあえて無視をして。悠貴はキーホルダーを一つ取り出すと、すみれの前に差し出した。
「流石に二個もいらないから、やるよ」
悠貴がそういうと、すみれは驚いたように瞳を瞬かせる。悠貴はすみれがキーホルダーを受け取るのを待っていたが、あまりにも動きがないので思わずそっと投げ渡した。
「おわっと! ちょっと、しまえながちゃんを雑に扱わないでよ!」
「あー、ごめんごめん。手が滑っちゃって」
すみれにそう言い訳をする悠貴は、真っ正面を向いていて。すみれの方に振り向くそぶりは見られない。
「……で、本当にいいの? 貰っちゃっても」
「いいよ。そもそもダメだったら、容易にあげたりしないし」
ここでやっと、すみれの方をちらりと見た悠貴。そこですみれは察した。
「……分かったよ。まれに見るドジっ子悠貴の為に、このしまえながちゃんは、私が大切に頂きますんで」
「おう、お願いしますよー」
悠貴はまだ正面を見ている。髪で耳が隠れているから見えないが、きっとその耳は赤くなっているだろう。
「……ねぇ、悠貴」
「ん?」
名前を呼んでも、やはりすみれの方に振り向かない悠貴。すみれはそのまま続けた。
「……ありがとね」
すみれが笑顔でお礼を言う。悠貴は「おう」としか言わなかったが。
「よぅし! うちに帰ったら、しまえながちゃんコレクションに加えて記念撮影だー!」
「……そんなにあるの?」
「ん? まぁ、そこそこかな。写真撮ったら送りつけるから」
「いや、別に――」
「楽しみにしててね~」
「……あーはいはい。楽しみにしておきます……」
「うわー……超棒読みじゃんこの人……」
……こうして二人は、そのまま帰路についた。
(……勢いで買って渡したけど、これって、もしかしなくても、俺とすみれのお揃いって奴だよな……!!)
(どうしよう、悠貴からのプレゼントしまえながちゃん……しかも、悠貴とお揃いの、しまえながちゃん……!!)
……と、お互いに心の中で赤面していたのは、当人だけの秘密。