短編小説集
メリーゴーランド
「皆様、ようこそおいで下さいました。今宵、この屋敷の名物であるメリーゴーランドをごゆるりとお楽しみ下さい」
「わぁ〜い!」
子供達やその親、恋人達が一斉にメリーゴーランドへと向かって行く。
丁度、馬の数と来た人数がピタリと同じだった為、空いている馬はない。
メリーゴーランド全体がゆっくりと回り始める。
そして楽しげな音楽が流れ始めた。
回る、回るーーー
人も馬も、回るーーー
皆、談笑したり楽しげな笑顔を振り撒いていた。
そして私は…、
ニヤリと口角を上げ、鎌を振り上げる。
スパッーーー
空を切るこの音は、いつ聞いても気持ち良い。
詰めていた息を吐き出す。
ゴトン、ゴトンーーー
さっきまで楽しげに馬に跨っていた人達は、もういない。
全ての人達の身体は2つに分かれ、地面に転がっていた。
辺り一面、真っ赤に染まる。
音楽は止み、馬もピタリと動きが止まった。
「さぁ、お食べ」
その言葉と共に颯爽と何かが現れる。
この世にいるはずのない大きな黒い獣は、メリーゴーランドの周りを素早く回る。
すると
徐々に人だった物が消えていき、赤く染まったメリーゴーランドが元の色に戻っていく。
「…美味しかったかい?」
「グルル」
黒い獣は不満気に、喉を鳴らす。
まだ、お腹が満たされていない様だ。
これだけでは、お腹がいっぱいにならないのはいつもの事。
エサは呼んである。
あぁ、ほら次のエサがやってきた。
私の一言で、黒い獣はスッと消える。
「皆様、ようこそおいで下さいました」