短編小説集
迷子の男の子
「どうしたの?迷子かな?」
「…お家がどこにあるかわからないの」
目の前で泣きそうになっている男の子に声をかけると、そう返事がきた。
そっか…、迷子がーーー
「…お父さんとお母さん、どっちに今会いたい?会いたい方と会わせてあげるよ」
「本当?」
泣きそうだった瞳に少しだけ、光が宿る。
良かった。
何とかなりそうだ。
「うん」
「あのね、お父さんが良い!肩車してもらいたいんだ!」
「分かった。呼び出すから待っててね」
私は手を合わせ、そしてこの子のお父さんに来てもらうようお願いする。
するとーーー
上空に何かが浮かんでいる気配を感じ、瞳を開けた。
30代くらいの男性が、心配そうに男の子を見つめている。
「…ほら、お父さんが来てくれたよ。分かる?」
「え?」
俯いていた男の子がゆっくりと上を向き、そして大きく目を開けた。
瞳からは、大粒の涙がとめどなく流れ始める。
「お…、父さん。お父さん!」
父親がスーッと子供の目の前まで来て、大泣きする我が子を抱きしめた。
私もそんな2人を見て瞳が涙で滲む。
「…さあ、行こう。母さんが待っているぞ」
「うん!お父さん、肩車して欲しいな!」
「あぁ、ほら乗りなさい」
嬉しそうにはしゃぎながら男の子は父親に肩車をしてもらい、そしてあの世へと旅立った。
あの子は何十年も前に交通事故にあってからずっと、ここにいたらしい。
親が亡くなってもずっとーーー
今頃あの親子は、何をしてるのかな?
夕闇の中、空を見上げながら私は微笑んだ。