短編小説集
最期の別れ
「あら!こんにちは。また来たの?」
コツンッと音がして窓を見れば、1羽のカラスがいた。
カラスの視線は家の中にいる、1匹の犬に集中している。
「カラスさん、今からお外に出るから待っててね」
「カー」
私の言葉を分かっているのかいないのかは分からないけど、いつも私のこの言葉に必ず一鳴きしてくれる。
それは天候が悪い時以外、3年間変わらないいつもの日常だった。
そんな楽しく穏やかな日が崩れたのは、3ヶ月後の事だったーーー
ある日、犬のシロが突然病気になりそして数日後には息を引きとってしまった。
その日もカラスはやってきた。
「…ゴメンね。もう、遊べないの」
外にいるカラスに声をかけたけど、一向に窓から離れてはくれない。
「…おいで」
カラスに分かるかな?
と思いながらも最期の挨拶をしてもらおうと、初めて家の中にカラスを招き入れた。
ヒョコっと窓から家の中に入って来たカラス。
そしてーーー
真っ先にシロの側に駆け寄り、そのまま寄り添った。
まるでシロがどうなったか分かっているかの様にーーー
瞬間、堰を切ったように私は泣いた。
自分の頭を動かないシロの体にスリスリしたり、亡骸を見つめるカラス。
夕闇が近づくまでずっと、それは続いていた。
そしてーーー
カラスはスッと犬から離れ、一声鳴くとそのまま窓から出て飛び立ってしまった。
その時のカラスの鳴き声は、私が今まで聞いた事もないくらいとても悲しげな声だったーーー
その後、カラスはウチに来る事はない。
今頃、あのカラスはどうしてるのかな?