短編小説集
愛しい人
「いやぁぁぁ〜!」
車のブレーキ音に驚き振り返った瞬間、目の前に迫ってくる車のライト。
もうダメかと諦めかけた時、私の身体は何かに押されて宙を飛ぶ。
止まった時間が動き出した時、私の横には血だらけのアイツがいた。
「リュ…ウ?」
「お前が…、助かって良かった…」
「えっ?」
私の頬に血だらけの、アイツの指先がふれる。
「…好き…だ…」
パタンと落ちるアイツの手…。
もしかしてリュウは、私を助けてくれたの?
「リュ…ウ、リュウ…」
血だらけのアイツの顔に、震える指先で触った。
何で私を助けたの?
バカっ!
ポタポタとこぼれ落ちる私の涙が、アイツの血と混じり合う。
「…私も……、好き…。リュウ…」
お願い、目を開けて!
耳奥に救急車のサイレンが、微かに聞こえてきた。