首取り様3
☆☆☆

明治45年。


長が決めたことによって、幼い5人の少年少女がイケニエになった。


『街の人たちは随分怒っていますよ』


『わかってる。だけど今年もしっかりと雨が振ったじゃないか』


雨乞いの儀式は大成功を果たし、今年もたっぷりの雨がこの街を潤してくれた。


それは紛れもない事実だったので、長は妻の辛辣な意見にもあまり耳を貸さなかった。


人から恨まれることは長になれば誰でもついてまわる困難の1つだった。


1つの街を束ねるということは、それだけのリスクを伴うことでもある。


それなのに妻は少し気にしすぎなのだ。


長はあくびを噛み殺して布団に潜り込んだ。


今日も朝早くから街人に呼び出されて用水路の点検や土砂崩れの起きた山の様子を見てきたから、体は疲れていた。


妻はまだこれから縫い物をするようで隣の部屋にから薄明かりが差し込んでくる。


先に寝ていてもなにも言わない妻なので、長はそのまま目を閉じた。


明日の朝はまた忙しくなるんだ。


すでに終わったイケニエのことなど気にしている暇はない。
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