首取り様3
☆☆☆

イケニエが決まったことは街の者たちに知らされた。


しかし誰がイケニエに選ばれたのかは誰も知らないままだった。


妻から『子供が選ばれたりはしていませんよね?』と念を押すように聞かれても、長はなにも答えなかった。


今までは妻にだけはポロリとイケニエの情報を漏らしてしまうことがあったが、今回だけは絶対に漏らしてはいけなかった。


そして、雨乞いの祭りがやってきた。


大人たちも子供たちも朝から落ちつかず、街の中を無意味に歩き回ったり、まだ芽が出るには早すぎる作物の様子を見に行ったりしていた。


『やめてください! どうか、助けてください!』


儀式のために必要なイケニエを集める時間になったとき、一軒の家で母親の悲痛な叫びが響き渡った。


『占いで決まったことだ』


長は低く小さな声でそう言うだけで、子供連れて行く若い男たちをとめることはしなかった。
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