ゆびきりげんまん
 汗を頬までしたたらせて、息を切らせながらも、満ち足りた笑顔を浮かべて葵君が私の前に来た。


「葵君! 凄く、凄く素敵だった! 素晴らしい演技だった! 上達したんだね!」


 私が興奮のあまり両手を握りしめて、声をうわずらせて言うと、葵君は嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます! でも冒頭の四回転が残念だったなあ。決めたかったんだけど、沙羅さんの前で少し緊張しちゃった」


 そう言って葵君は少しだけ舌を出した。


「ううん、私は本当に感動したよ! 葵君! 私ね、葵君のこと、好きでよかったって、心から思ったの! 私の好きな人は本当に輝いてるって!」

「え?」


 私の言葉に葵君の瞳が揺れた。

 その葵君の顔を見て、私は我に返った。

 どうしよう! 心のままに言ってしまった!


「あ、あの、えっと、あのね、私……。ごめん、えっと……」


 あまりのことにパニックになってしまい、なんて言っていいかもわからなくなった。

 そんな私の手を葵君が優しくとった。


「え?」


 今度は私が驚く番だった。


「葵君?」

「沙羅さん、今の言葉、本当のことですか? 僕のこと好きって」


 葵君の真剣な目が私を捕らえる。

 私は覚悟を決めた。


「うん。私、葵君のことが好きなの」

「それって、男としてですか?」


 葵君の手に力が入る。私も葵君の手をギュッと握り返した。


「うん。男性として、葵君が好き!」
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