ゆびきりげんまん
 葵君の目がふっと笑ったと思うと、私は葵君に抱きしめられていた。

 演技を終えた葵君の体はとても熱くて、私はその体温が自分に移っていくのを感じてどきどきした。


「あ、葵君?!」

「やった!  嬉しい! でも、先に言われちゃった!」


 葵君は一度手を緩めて、私を見て、またもう一度私を抱きしめた。今度は長く。

 葵君の汗の香り、高めの体温、そして早めの胸の音を感じて、私は目眩を感じた。

 何がなんだがわからない。身体中が心臓になったみたいにドキドキする。

 葵君、こんなに細いのに、やっぱり男の子だとぼんやり思った。抱きすくめられると何もできなくなる。

 戸惑う私を抱く力を葵君はさらに強めた。


「嬉しい……! 沙羅さん!」

「あ、葵君、ちょっと苦しい……!」


 私の言葉に葵君は手を緩めて、私の顔を覗き込むように見た。


「ごめん、沙羅さん。大丈夫ですか?」

「う、うん」


 葵君の睫毛の長さがはっきりわかるほどの距離で見つめられ、私は恥ずかしくて、でも嬉しくて声が裏返った。


「沙羅さん。僕、今日、言おうと思っていたんです。沙羅さんのことが好きですって」


 葵君の熱っぽい視線で真っ直ぐに見つめられて、私は息をするのも忘れそうになった。顔が熱くてぼうっとする。

 葵君、私のこと、好きって言った? 好きって。私のこと好きって……!

 幸福感に涙が浮かぶ。そんな私に葵君は言った。


「沙羅さん、好きです。昔から今までずっと、沙羅さんだけが大好きです! ……沙羅さん、聞いてます?」


 私は何度も首を縦に振った。


「私も、葵君が好き」


 熱に浮かされたような私の言葉に、葵君は顔をくしゃくしゃにして微笑んだ。

 そんな葵君を心から愛しいと思った。

 葵君がふといたずらっぽい目で私を見た。


「紗羅さん。僕、まだゆびきりしたこと、ちゃんと覚えてますから」


 葵君の言葉にまた体温が上がる。

 指切り。

 それって、子供のときの? あの、約束?

 葵君、覚えていてくれたんだ。

 胸がじんと熱くなった。
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