彼は私を偏愛している
所以
“阿久津 亜舟は、血も涙もない冷酷な阿久津(あくま)

財界で言われている言葉だ。
亜舟の父親もかなり恐ろしいと言われているが、亜舟の方がはるかに恐ろしい。

それは亜舟には、情が特定のモノにしか働かないからだ。

それは言わずもがな、雛菜にだけ。


なので、亜舟の会社はいつもピリピリしている。


「ねぇ、佐近」
「ん?」
「こいつ、担当から外して」
「え?」
「目障り。
一緒に仕事するに値しない」
「ちょっと、連絡ミスしただけだろ?
課長がフォローして、なんとかなったんだからいいじゃん!」

「ちょっと?」
亜舟の雰囲気が落ちる。

「え?
━━━━━━!!!?あ、亜舟…わりぃ、そんな意味で言ったんじゃないよ!!」

「ちょっとって何?
ミスはミスだよ。そいつの処分は人事に任せる。
どっちにしても、僕には関わらせないで!」

「………わかった」


とにかく厳しい、亜舟。
当然、敵も多い。

「あ、そうだ!亜舟」
「何?」

大枝(おおえだ)覚えてる?」
「大枝?
あー、半年前に退職した経理の?」
「うん。
なんか、亜舟の周りを嗅ぎ回ってるみたいなんだ!あいつ、かなり亜舟を恨んでるからな!
まぁ…亜舟相手だし、バカなことしないとは思うけど……気をつけろよ!
俺も、警戒はしてるんだけど」

「うん、わかった」

━━━━━━━━━━━━━━
「相原 雛菜さんだよね?」
雛菜が大学が終わり、帰ろうとして門を出たところである男に話しかけられた。

「あ、はい」
「君の恋人のことで、相談があるんだ」
「え……亜舟くん…です…か?」

「少しだけ、時間もらえないかな?」

近くのカフェに移動する、雛菜と大枝。
「あの、亜舟くんに何か!?」
不安そうに見つめてくる、雛菜。

(結構可愛い……阿久津が夢中になるのも、わかるなぁ)
思わず、見惚れる大枝。

「俺、阿久津社長の仕事関係の仲間の小枝(こえだ)って言います。今社長がトラブルに巻き込まれていて、ある情報が必要なんです。
それを、俺に教えてくれないかな?」
「え……?と、トラブル…!?
……………ど、どうすればいいんですか?」

大枝はUSBメモリを雛菜に渡す。
「自宅の社長のパソコンの情報をこれにコピーしてきてほしいんだ。もちろん、社長には内緒で……!」
「………」
雛菜はゆっくり、大枝の手からUSBメモリを受け取った。

「できる?」
「は、はい。
亜舟くんの為なら、が、頑張ります!」

大枝は、雛菜にわからないようにニヤリとほくそ笑んだ。
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