彼は私を偏愛している
「亜舟くん、もう出ないと遅れるよ!」
書斎をノックする、雛菜。

「うん!」
「何してたの?」
「ん?ちょっとね!」
ニコッと微笑み、書斎を出た亜舟。

そして名残惜しく亜舟が仕事に出たのだった。

この日は雛菜は大学が昼からで、そわそわしながらある人物を待っていた。

「雛菜さん!すみません、遅くなって……」
インターフォンが鳴り、大枝がマンションに訪問してきた。

大枝を中に招き入れる。
「どうぞ」
「さすが、社長の自宅だ!凄い……」
リビングダイニングの大きな窓から外を眺める、大枝。

「あの、私…あまり時間がないので…」
「あ、ですよね?」
「こっちです、書斎」

大枝の電話の内容は……
“だったら、俺を自宅に入れてくれないか”ということだった。

「ありがとう」
「でも、どうするんですか?
パスワードがわからないと、何も見れませんよ?」
「大丈夫ですよ」
大枝は、鞄からノートパソコンを取り出した。
亜舟のパソコンに繋げて、器用にキーボードを操作する。

あっという間にパスワードが判明する。

「え……!?凄っ!!」
パソコンの画面にあらゆる情報が映し出された。

大枝が全て、自分のノートパソコンにコピーしていく。
雛菜はその姿を見ていると、急に罪悪感に包まれる。

「あの、小枝さん」
「は?」
「本当に、亜舟くんの力になれるんですよね?」
「は?あー、もちろんですよ」
少し投げやりに答え、ノートパソコンを鞄にしまい雛菜の肩に手を置いた。

「ありがと、雛菜さん」
急に大枝が悪魔のように見えた、雛菜。
「あの、小枝さん!」
「あ?何?」
「本当に大丈夫ですよね?」

「はぁー、あんた…しつこいよ…!?」
「え……」
「君のおかげで、良い情報得られたよ!」
「は?」
「サンキュ!」
「え?どうゆう意味ですか!?」
「雛菜さんって、純粋なんだねー」
「え……!?」

「こんな簡単に騙されるなんて!!」

「え?え?どう━━━━━」
「じゃあな!彼女さん!」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「亜舟!相原って子が、受付に来てるみたいだけど?なんか、どうしても会わせろって!」
佐近に言われ、亜舟は急いでエントランスに向かった。

「ヒナ!!?」
「あ、亜舟く…」
「どうしたの?大学は?」
「サボった…」
「どうして?
もしかして、体調悪い?」

「………」
「ヒナ?」
「……………亜舟くん」
「ん?」
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」

雛菜は目を潤ませ、必死に何度も謝罪の言葉を繰り返した。
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