彼は私を偏愛している
案の定、大枝は葦原の会社に来ていた。

「で?
俺にどうしてほしいの?」
葦原が、大枝と対当し言った。

「この情報を渡す代わりに、ここで俺を雇ってほしい。もちろん、役員として」
大枝は葦原を見据えて言い放った。

そして大枝はUSBメモリをパソコンにさし、画面を葦原に見せた。

「へぇー、凄いな」
葦原は感情のない声で言った。

「この情報があれば、阿久津の会社を呑み込めると思わね?」
「そうだな」
「良い条件だろ?俺を役員にしてくれりゃあ、この情報はあんたの物!!」

「お前ってさぁ、可哀想な男だよな。
違うな。バカだよなぁ…」
突如、葦原が憐れむように大枝を見ていった。

「は?」

「この情報……本当に“あの”阿久津が考えたプロジェクトだと思う?」
「何、言ってんの?」
「この情報、もっとよく見てみろよ!」
椅子から立ち上がる、葦原。

「は?葦原?」

そして大枝に近づき………

「このプロジェクト、俺が大学生の時に考えたプランなんだよ」
大枝の顔を覗き込んで囁いた。

「は………?」

「しかも!恥ずかしい黒歴史に値する程の、最低・最悪なプラン……
阿久津の奴、まだ持ってたんだ!こんなボツプラン」

葦原の雰囲気が、黒く染まり落ちていた。


「社長。
阿久津様が来られました」
「来たぞ、大枝」

「大枝。
久しぶりだね」

恐ろしい雰囲気を醸し出した亜舟が、大枝に近づいてくる。

「阿久津…
なん…で…?」
「俺が呼んだ!
つか、元々は保原から連絡があったんだが」

「大枝、目には目を歯には歯をって言葉あるよね?」

「え………ま、まさか!!?」


「ヒナの太ももに痣があるんだ」
不意に、亜舟が言った。
「は?」
「お前の力になる為に、僕より先に眠らないようにつねった痣。まず、それからね」

大枝の太ももを、おもいっきりつねった。
「ぎゃぁぁぁーーー!!!?」
何と言っても、亜舟の力だ。
痛みが凄まじい。
大枝は大声を出して、もがく。

「汚ねぇ声」
葦原が顔を歪めた。

「ヒナ、可哀想だった。
真っ白な肌に、真っ青な痣がついてて……」
「もう…やめて…くれ…」

「たぶん、何度もつねったんだよ、きっと……
眠らないように……
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も!」

「ぎゃぁぁぁーーー!!
やめてくれぇぇぇーーー!!」
何度も亜舟に太ももをつねられ、肩で息をしながら涙目になっている大枝。


「あとは、お前が僕のパソコンから情報を盗んだから、僕も情報……盗んだから!」
「え……」
「僕のパソコンね。
ある機能があるんだ」

「は?」
「繋げた別のパソコンの中身、ぜーんぶ自動的にコピーしちゃうんだ」
「え……!?
………てことは…………」

「お前の個人情報は今、全て僕の手の中にある」

「━━━━━━━!!!!?」

「それに、スッゴい情報が入ってたんだけど?」

「冗談…だろ……?」
大枝が信じられない思いで亜舟を見る。

「本当だよ。
スッゴい人達の裏取引の情報持ってるだね、大枝って」

「頼む!!その情報、返してくれ!何でもするから、許してくれ!!」
「何でも?」
「あぁ!何でもする!
こんなこと知られたら……」



「だったら、死んで?」
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