彼は私を偏愛している

｢ごめんね！遅くなっちゃった！｣

そしてそこに、亜舟の元カノ・仁藤(にとう) 実広が遅れて現れた。

といっても亜舟は、雛菜が成人するまで女をとっかえひっかえしていたので、実広は沢山の元カノの中の一人だ。
ただ実広は、他の女より少しだけ交際期間が長かったというだけ。

どの元カノも亜舟にとっては、雛菜を幸せにする為の練習台だった。


｢実広、お疲れ～｣
｢お疲れ様！｣

(うわぁ…綺麗な人……モデルさんみたい…！)
雛菜は、実広に見惚れていた。

実広は亜舟の向かいの席に座った。

｢亜舟、久しぶり！｣
｢うん｣
微笑む実広と、無表情の亜舟。

｢こちらは？｣
｢あ、私…亜舟くんと交際してます、相原 雛菜です！初めまして！｣

｢交際？彼女さんなんだ！
初めまして、仁藤 実広です｣
ふわっと微笑む、実広。

｢綺麗な人……｣
｢フフ…ありがとう！雛菜ちゃんこそ、可愛い～｣

｢そ、そんな…////｣

｢彼女じゃないよ、実広｣

｢え？｣

｢婚約者｣

｢え……婚約？｣

｢ヒナも！彼女なんて言わないで？
全然！違うんだよ！｣
雛菜の頭に手を乗せ、言い聞かせる亜舟。
その表情が、あまりにも優しい。

その表情に、実広はかなり驚愕していた。



実広の知る亜舟は有名な御曹司で賢く、喧嘩がとても強いが、でも淡白で冷たい男。

実広は付き合っていたとはいえ、正直…恋人同士とは言えない関係だった。
とにかく亜舟は、実広を都合のいいように扱っていた。

亜舟はよく言っていた。
｢僕は人を信用しない。別に付き合ってもいいけど、僕は都合のいいようにしか扱わないよ｣
と━━━━━

確かに亜舟の名前だけで、注目を浴びもてはやされる。だから、いい思いを沢山してきた。

その亜舟が、明らかに恋をしている。

誰が見てもわかる━━━━
愛しくて堪らない。
好きすぎて、離れたくない。
このまま誰の目にも触れさせず、大切に囲って閉じ込めたい。
そう言っているように見えるのだ。

実広は言葉にならない、醜い嫉妬心で埋もれていた。

｢さぁ、みんな集まったところで飲み物何にするー？｣
｢ビール！｣
｢俺、焼酎！｣
｢ハイボール！｣
｢酎ハイ！｣

｢ヒナは、ジュースだよね？
オレンジ？アップル？コーラ？それとも、烏龍茶にする？｣
亜舟が雛菜の顔を覗き込んで優しく聞く。

｢え？私もビール飲むよ！一応、飲めるよ！｣
｢こら！無理をしないの！嫌いなんでしょ？
ソフトドリンクにしな！｣
雛菜の頬を軽くつまむ、亜舟。

｢うー、じゃあ…オレンジジュースで……｣
｢ん。佐近、オレンジと僕はビール｣

亜舟は一瞬で表情を消し、佐近に言ったのだった。