彼は私を偏愛している
居酒屋を出て雛菜に電話をかけるが、出てくれない。

『今どこ?』
『タクシーの中?』
『連絡ちょうだい』
『お願い!』
『ヒナは何も悪くないんだよ』
メッセージを送るが“既読”にならない。

「なんで!?」
タクシーを拾うなら駅に行くだろうと、駅に急いで向かう。

するとすぐに雛菜を見つけることができた。

しかし亜舟の雰囲気が、怒りに包まれる。


「離してください!」

「いいじゃーん!」
「君が泣いてるから、慰めてやるっつってんの!」
「行こうよぉー」
雛菜が三人の男に無理矢理引っ張られ、何処かに連れていかれようとしていた。

「あぁ…葦原の言った通りだ」
亜舟は一人呟き、雛菜の方に足を進めた。

“俺ならこんな可愛い子が一人でいたら拐う”


「ヒナ!!」
亜舟は通る声で雛菜に声をかけた。

「亜舟くん!!」
亜舟の声に雛菜は振り向き、すがるような目で見る。
「ヒナ、おいで?」
両手を広げ言った、亜舟。

雛菜は男に「離してください!」と言い、亜舟の方に駆けて行く。
亜舟の腕の中に収まった。

「もう大丈夫だよ!
実広の事も、ナンパも、もう大丈夫!」
腕の中で震える雛菜に言った。

そしてナンパしていた男達を鋭く睨み付けた。

「5秒以内に僕の視界から消えて」

「は?」
「5、4、3…2!1……」

「うがっ!!?いてぇぇぇーーーー!!!?」
瞬間的に雛菜の手を掴んでいた男の元へ行き、手首を掴んで握り潰した。
もう片方の手は、雛菜を抱き締めたまま。

「初対面の君に教えてあげる。
僕は基本的に、何をされても何も感じない。
傷つけられても、騙されても、優しくされても、何も……
でも売られた喧嘩は買うし、仕事の邪魔者は排除する。それは、僕の生活に悪影響だから。
それともう一つ、例外がある━━━━━」

「た、頼む!!離して…くれ……!!!」

「ヒナに対しては、唯一僕の感情が動く。
ヒナが傷つけられたら、僕も同じように傷つける。
騙されたら、同じように騙す。
優しくされたら、嫉妬する。
…………だから、わかるよね?
君……ヒナの手首、握りしめてたね」

「…ってぇ…!!!」
「その上、引っ張ってた」

「━━━━━━━ま、まさか!!!?」

その瞬間、亜舟は男の手首をおもいっきり引っ張った。
凄まじい力で男は引っ張っられ、地面に放り投げられた。

「ねぇ、僕のヒナを何処に連れていこうとしてたの?僕も同じように、地獄に連れてってあげようか?」

「す、すみません!!!」
男達は怯えながら謝り、足早に逃げていった。

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