彼は私を偏愛している
「いいから!」
「でも……」

頼廣は風呂場に向かった。
雛菜は部屋を見渡す。

「あ……」
棚の上の写真が目についた。

大学一年の夏に頼廣や瀬里、未華子達で行った、キャンプの写真が飾っていた。

(キャンプ、楽しかったなぁ~)
その時のことを思いだし、思わず微笑んだ。
「なーに見てんの?」
後ろから頼廣が覗き込んできた。

「わっ!び、びっくりしたー!」
「フフ…キャンプ、楽しかったなぁ~」
「うん」
「覚えてる?シゲルが川に落っこちたの(笑)」
「あー、そうだったね!
フフ…服の中に鮎が入り込んで……(笑)」
「プッ…ハハハッーーー!!そうそう!あれは、ウケたなー!!」
「フフ…」


「━━━━━風呂、沸いたよ!
これ!タオルと、スウェット!」
「あ、ありがとう…」
「見た感じ、スカートは濡れてないみたいだから」
「うん…じゃ、じゃあ…お言葉に甘えて……」

━━━━━━━━
「あ、頼廣くん!お風呂、ありがとう」
「ん!コーヒー入れたから、どうぞ?」
「ありがとう…でも、もう帰らないと……雨もやんだみたいだし。通り雨だったみたいだね」

「コーヒーくらい、いいじゃん!
てか!雛菜…可愛い~」
そう言って、頭をポンポンと撫でる頼廣。

「え?」
「だって(笑)俺のスウェット、ワンピースみたいなんだもん!スカート、はいてるんだよな?」
「は、はいてるよ!!」
「でも、スカート見えねぇし(笑)」

「もう!からかわないで!!
やっぱ、帰るね!スウェット、洗って返すね!ありがとう!」
雛菜はバックを持ち、玄関に向かう。

「雛菜!!」
「え?」
「俺は━━━━」
「頼廣…くん?」

「ううん…」

「じゃあ、またね!」

ガシャンと音がして、玄関が閉まる。

「俺は、まだ…雛菜のこと好きだよ……
…………っくしょう!そんな簡単に諦められるかっての!!」

自分のスウェットを着ていた雛菜の姿が、頭にこびりついている。

本当は今日もう一度告白して、けじめをつけようと思っていた。
でも雛菜のちょっとした言動に心が奪われるばかりで、けじめなんかつけられない。

頼廣は乱暴に髪の毛をクシャっと掴み、気持ちを吐き出すのだった。


雛菜はマンションに帰りつき、スウェットを洗濯・乾燥していた。

ちょうど乾燥が終わった頃、亜舟が帰ってきた。

「ただいま~ヒナーどこー?」
「ヒナー!」

「あ!こんなとこにいた!
何やってんの?」
洗濯機の前にいた雛菜を後ろから抱き締める、亜舟。
「あ、おかえり」
「洗濯?」
「うん、今日、通り雨降って濡れちゃって!」
「あ、そうだったね。今から一緒にお風呂入ろう!
身体、冷えてるでしょ?」

「あ、大丈夫だよ!入ったし」

「は?」
< 26 / 30 >

この作品をシェア

pagetop