彼は私を偏愛している
次の日、亜舟は頼廣のアパート前にいた。

「こんにちは、貝谷くん」
インターフォンを鳴らし、訪問する。

「………なんすか?」

「僕の“婚約者”が借りた服を返しに来たんだよ」

「あー、捨ててもらって構わなかったのに」

「ん?」

「だって…阿久津さんからしたら、不快な物ですよね?俺だったら、不快極まりないから」

「そうだね。
じゃあ…僕の好きなように、処分するよ」

「用はそれだけすか?
それなら━━━━━━」
ダルそうにドアを閉めようとする、頼廣。

「あ、待って!
もっと、大事なこと伝えてないよ」

「だから!なんすか!」

「今後は、僕のヒナに必要以上に関わらないで?」

「は?」

「君には無理だよ。
ヒナを支えること、愛すること、守ること……
全て━━━━━」

「なんでそう言えるんですか?」

「ヒナはこれから、僕と同じように壊れていくから」

「は?何…言ってん…すか…?」


「君は、どうして、ヒナをこの家の中に閉じ込めなかったの?」

「は?あんた、何言って━━━━━」

「どうして、犯さなかったの?」

「………」

「どうして、壊れてないの?」

「あんた、頭おかしいんじゃ……」
亜舟の狂った考え方に、頼廣は悪寒がしてくる。

「おかしい?
あー、そうなのかなぁー?
でも、父さんもそんな感じだったもんなぁ」
「………」

「でも、僕からすれば君の方がおかしいよ」

「なんで……なんで、そうなんの?
確かに、昨日の雛菜はヤバかったけど……
俺があそこで犯したら、雛菜を傷つけることになる。
好きだから、傷つけたくねぇんだよ!」

「君の“好き”って感情は、そんな程度なの?」

「は?」

「人を本気で好きになると、心なんてあっという間に壊れるよ?」
「え?」

「僕以外見ないで。
僕以外考えないで。
家の中に閉じ込めて囲って一つになりたい。
ほら!心が歪んで、壊れていく……
倫理も道徳もなくなって、相手の気持ちにさえ気づかなくなる。
…………これが、本気で好きになるってことだよ」

「そんなの…違うだろ?」

「そう?」

「本気で好きになると、相手の気持ちを尊重できるもんじゃないの?
苦しませないように、傷つけないようにその為なら自分はいくらでも我慢できる。
確かに、閉じ込めたいとか犯したいとかそんな気持ちないって言ったら嘘になる。
でもそれを押し殺せるのが、本気で好きになるってことだろ?」

「僕達は、わかり合えないね」

「わかり合いたいと思わない」

「そうだね。
でも、僕はヒナを僕と同じところまで落ちてもらう」

「は?」

「ヒナが僕を壊した。
だから、愛するヒナに一緒に落ちてもらうんだよ」

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