彼は私を偏愛している
「ヒナ」
「……////」
「こっち向いて?」
「……や、やだ////」

夜が明けて、二人は風呂に入っている。
バスタブに亜舟が後ろから雛菜を抱き締め入っていて、雛菜は顔や耳を真っ赤にさせ俯いている。

「ヒナ」
「やだ…恥ずかしいの…!」
「お願い…ヒナの顔が見たい…」

亜舟の言葉に、ゆっくり振り返った。
真っ赤な顔をした雛菜が、あまりにも可愛い。

「ヒナ、可愛い…可愛いよ……」
亜舟が顔を近づけ、口唇を寄せた。

「亜舟くん、見すぎ…////」
「だって、ヒナが可愛すぎるんだもん!」
「亜舟くんは、カッコ良すぎ!」
「そう?」
「うん。今まであった男性の中で断トツ!」

「フフ…嬉しい…!
でも…………」

「え?亜舟く…?」

「ヒナのこの目に、僕以外の男が映ったなんて聞きたくなかったな…」
雛菜の目元にキスをしながら言う。

「あ…ご、ごめんね……」
「ううん…僕が勝手に嫉妬してるだけ……!
……………でも、気をつけてね!」
「え?」

「必要以上に僕以外の男と関わっちゃダメだよ?
…………じゃないと、僕…何するかわからないから」

「え……」

「………なんてね!
さぁ、あがろ?」
そう言って、雛菜を抱き上げバスタブを出た亜舟。

そのままバスルームを出た。

「亜舟くん!下ろして!私、自分で……」
「ダーメ!ヒナは、僕がお世話してあげる」
「え?お、お世話?」

「うん!離れてた分、ヒナに尽くしたいんだ!
何でもしたい!ヒナの為なら、何でも……!」

結局、亜舟に身体を拭き着替えさせられたのだ。

一緒に朝食を作って食べ、片付けながら……
「ヒナ、今日大学は?」
「ん?お昼から一コマだけだよ。
だからお昼少し前に出て、友達とランチしてから行く」

「友達……って、誰?男いる?」
食器を洗っていた亜舟の手が止まり、表情が消える。

「え?瀬里ちゃんと未華子(みかこ)ちゃんの三人でだから、女の子だけだよ」
「ん。わかった!」
そう言って、微笑んだ。

「………」

何かが、違う━━━━━

10年前の亜舟とは、何か……

時々、フッと…表情がなくなるのだ。
雛菜の前では、笑顔を絶やさない亜舟が……

入浴中に“男性”の話をした時もそうだ。

雛菜は、亜舟の前でできる限り“男性”の話はやめようと心に誓うのだった。


「じゃあ、行ってくるね!ヒナも、気をつけて行くんだよ?」
「うん!行ってらっしゃい!」

「………はぁ…」
亜舟が雛菜の手を握りしめ息を吐いた。
< 6 / 30 >

この作品をシェア

pagetop