彼は私を偏愛している
しばらくして、玄関の鍵が開く音がして亜舟が帰ってきた。

雛菜はパタパタと足音をさせ、出迎えに向かう。

「亜舟くん!おかえりぃー!」
「……っと!ただいま!ヒナ!」
抱きつく雛菜を受けとめ、抱き締めた亜舟。

雛菜の肩に顔を埋めた。

「んー、ヒナのいい匂いがする!幸せ!」
「私も、亜舟くんの匂い好き…」

しばらく玄関で抱き合っていた。

「さぁ、ヒナ!
何食べたい?」
「う~んとね…あ!豚のしょうが焼き!」
「しょうが焼きね!確か…生姜があっ…たはず…
あった!ん。できるよ!作ろ!」
冷蔵庫を見ながら答えた、亜舟。

「瀬里ちゃんが今日お昼に食べてたの!
美味しそうだなって!」
「フフ…そっか!
可愛いなぁー、ヒナ!」
頭をポンポンと撫で、スウェットの袖をあげた。

てきぱきと無駄のない動きで調理する、亜舟。
雛菜はただ、見惚れていた。

「ヒナ、そこのお皿取って?」
「……/////」
「ヒナ?」
「え!?あ、はい!な、何でしょう?」

「フフ…お皿!取って?」
「あ、はい!どうぞ!」

「なぁに?ずーっと僕のこと見つめて」

「亜舟くんは、人間じゃないの?」

「………は?
何?急に(笑)」

「だって、何でもできるんだもん!
会社社長さんで、頭も良くて、お料理は完璧だし、スウェット姿なのにモデルさんみたいにカッコいいし……!なんで!?」

「なんでって言われてもなぁ…
それより、出来たから食べよ?」
微笑み言った、亜舟だった。

「ヒナ、お酒飲める?
………って、成人したばかりだけど」
「お酒はちょっと…
あ、でも!亜舟くんは飲んでいいよ!」
「ヒナが飲まないなら、僕も飲まないよ」
「え?じゃ、じゃあ…付き合う!」

「………」

「亜舟…くん?」
突然、亜舟の雰囲気が黒く染まり雛菜は不安になる。

「ヒナ」
「はい!」
「僕には気を遣わないで?」
「え……?」

「今朝、言ったよね?
僕は、ヒナに尽くしたいって!
ヒナの為に何でもしたいんだ、本当に何でも!
だから、僕に沢山ワガママ言って?
僕の世界の中心は“雛菜”なんだよ?」

「うん、ありがとう…!」

「あ!でも!
離れたいとか、嫌いとか……そうゆうのは、勘弁してね!そうゆうのは、受け入れないから!
ヒナと、ずーっと一緒にいたいんだからね!」

「大丈夫だよ!私の方が、きっと……亜舟くんのこと大好きだから!」


「━━━━美味しい~!」
「ん。まぁまぁだな!」
楽しく夕食が進む。

「ヒナ、煙草吸ってもいい?
ごめんね、煙草はどうしても止めれなくて……」
「うん、どうぞ」
ソファに並んで座り、コーヒーを飲んでいる二人。
雛菜は亜舟が煙草を吸う姿を見つめていた。

「カッコいい…」

“阿久津なんて、俺達とはレベルが違う!
俺達がどんなに頑張っても、敵わないような人種なんだぞ!”

ふと、頼廣の言葉が蘇った。
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